「僕もトワンのことを悲しみを持たずに思い出せるようになりたい」とガハクが言う。昨日私が、「トワンのことを思い出してももう悲しくなくなった」と言ったからだ。
でも、さすがにガハクまで死ぬとは思っていなかったから、突然そこに立たされた時は怯えた。その時、呼びかけるものはトワンしかいなかった。毎日毎時間呟く相手は、空に浮かぶ雲。で、その形はトワンに見えた。夕陽に照らされていれば強く返事が返って来たし、真っ白い雲ならばキッパリと不安を切り離せた。
一方ガハクはと言えば、混濁した意識から抜け出してすぐに、私が独りでこの家にいることを可哀想に思って心配になったのだそうだ。自分の周りにはたくさんの人がいて面倒を見てくれているけれど、一人でいるのはさぞ寂しいだろう「こんな時こそトワンがいてくれたらなあ」と。
一人で生きるということの練習ができた。どっちが先であってももう孤独は怖くはない。「死を受け容れたんだね」とガハクに言われた。どんな時でも「トワン!」と呼びかけると楽しくなるのは、何故だろう?
今日は4枚の絵に筆を入れたそうだ。『赤い城への道』の途中に止まっている荷馬車が夕陽に輝いている。(K)