5時になると手元が暗くなる。久しぶりに投光器を取り出して来て、高いところから照らしながら彫った。夜の野外でカチンカチンと甲高いノミ音を響かせていると、時を忘れる。若い頃にやれたことが、ずっとやれなかった。なのに、今この庭ではやれている。
アトリエをこの庭に移してから最初に彫るのは、この壊された石の彫刻を作り直すことだと決めていた。これをしっかり彫ることができれば、過去をすっかり捨てて歩み出せる。
石の粉を洗い流すためにジョウロで水をかけたら、石の中に山の模様が浮き上がった。「こんな風に磨けないかなあ」とガハクが言う。彫った形を横切って黒い模様を磨き上げるなんて、ちょっと私には思い浮かばない発想だ。やっぱりガハクは絵描きなんだな。(K)