2020年12月12日土曜日

誰も教えてくれなかった彫り方

 磨いてからまた刻むと、さらに奥の形が見えて来て、もっと彫ったらさぞいい形になって美しいだろうなあと思う。

昔の人はこういう風に彫っていたに違いないんだ。磨くと石の色が変わるし、形が一旦甘くはなるのだけれど、そこに線を入れるとくっきりとして来て、ちょうどイラストみたいなお洒落で見た目は派手な感じになる。

でも、そこでやめちゃうと品がなくなるんだ。そこをもう一つ先までやるのが一流の仕事であったはずなんだ。

現代では機械でそこをすっ飛ばすから、霊的なものが何にも残らなくなったということだ。全ての工程を 人の頭と、目と、手が、ひと繋がりになってやれた時に初めて、時間なんていうものが持ち込んだ焦りや抑圧や欲望の欺瞞が失くなる。

やりたいだけやってみたらいいと自分に言えるし、あゝよくここまで来れたなあと思えるし、もっと先がありそうだぞと希望が湧いて来て、その為に始めた筋トレだって面白くなって来る。

独りでアトリエにいてコツコツコツコツ、ゴシゴシゴシゴシと何時間も彫ったり削ったりしていることが無為だなんて感じないんだ。それでも私のことをキチガイと言う人は誰もいない。自転車で通り過ぎると、手を上げて合図を交わす人もいる。長生きはいいもんだ。こんな生き方もあるということを示せるのだもん。(K)



2020年12月11日金曜日

進化する妻の肖像

こういう美しい色が出せるのは、光で見てないからだ。熱でとらえているからなんだな。 薄っぺらにならないように力強く野太く無骨に描こうとしていたように見えたのに、急に繊細な形に大胆な色を載せているので驚いた。絵は、教わり教え学んだ器に、ある日突然どどーっと注がれるものらしい。どんどん描き変えられていくガハクの絵から発するエネルギーに 圧倒されている。

今夜のギターの音は柔らかくて、1音ずつがきっちりしている。クリスマス頃には合奏できるだろう。ピアソラの『Coral』という曲を毎晩弾いている。(K)



2020年12月10日木曜日

オーブンが壊れたので

よく膨らんだパン生地をいつものように焼こうとしたら、オーブンが温まっていない!パン焼き係のガハクは慌てて、オーブンを分解して修理できないかと、あれこれ試みたそうな。しばらくやってみたがどうしても分解できないブラックボックス(アナログの電気オーブンなのだけど)に突き当たり、すっかり諦めて、フライパンで焼き始めた頃に私は帰宅した。 玄関を開けたら廊下にオーブンが置かれていたので、事情はすぐに察した。

自然酵母のパンは発酵がゆっくりだし、膨らみ方にも腰があってどんな風にも焼ける。食パン4斤になるはずだったのが、5枚のぎゅーっと中身が詰まった重くずっしりしたパンになった。薄く切って食べてみたら、ちょっと酸っぱくて焦げ臭い素朴な味がした。見た目もワイルドじゃないか。原始パンと名付けよう。

オーブンは、また同じものを注文した。明日届くそうだ。火さえあればパンは焼ける。(K)



2020年12月9日水曜日

月を見上げる犬

昨日は鼻の穴を彫っていた。犬の鼻は意外に大きいのだ。穴の縁が崩れぬように慎重にやらねばならない。深さはそれほど必要ではないけれど、鼻の向きが大事で、ピチッと角度が決まると品がいい。

今日は耳を直した。犬の耳の穴は人と同じで、目の後ろにある。耳を立てても穴の位置が変わる訳じゃないのに、つい側面を彫り過ぎてしまって量が足りない。でもそこは彫刻、何とかなるだろう。

彼は何を見ているのか?大好きなもの、大好きな人、大好きな何かだ。目と鼻と耳は三ついっしょになって同じ方向をじっと見つめ、風の匂いを嗅ぎ、小さな音も聞き逃さないように耳を立てている。

もうすぐ山から月が出て来る。今年最後の満月は三十日。冬の月は天頂を通る。(K)



2020年12月8日火曜日

太陽と共に行動すると

アトリエの畑は、秋野菜と冬越しの苗で、足の踏み場もないくらいになっている。

サヤエンドウが育ち過ぎてしまった。こんなに暖かいと分かっていればもっと遅く蒔いたのだけど、タイミングを図るのが難しい。

真ん中の苗はキャベツとブロッコリー、左奥にはレタスの小さな苗が植っている。食べるのは6月。気が長い話だが、次々と種を蒔き続けていれば、畑にはいつも何か食べるものがあるという訳だ。

地面にヒビが入っているのは、モグラが通った跡だ。そのまま放っておくと根っこが地中で浮いて乾いて、やがて枯れてしまう。上から押さえつけて空洞を押し潰して回った。

玉ねぎのまだ細く小さな苗の周りに枯れ草を敷き詰めた。霜除けの為だ。あとは、雪に押しつぶされないように棒を渡す作業が残っている。

太陽があるうちに行動すると、畑の野菜がよく育つ。当たり前か。(K)



2020年12月7日月曜日

クリスマスみたいだね

天使の足が綺麗なので、そこを中心に撮りたかったのだけど、画面が光ってしまってよく見えない。羊を見下ろすこの天使は、風に流れて来た雲のようだ。

「ここだけ見るとクリスマスみたいだね」と、ガハクが言う。確かにクリスマスカラーがぜんぶ揃っている。赤、緑、金色、銀色、、、小鳥たちの歌。羊の群れもいるし。「あ、ラッパを持たせるのを忘れた」羊飼いの少年が描きかけのままだ。明日はこの子の手には金色のラッパがあるだろう。

ヒョロっと高くて青い木は霊界の木。 緑の木々はこの世に根を下ろしている。風に香りがある時は、近くに天使がいるそうだ。今夜はキッチンに焼き立てのパンが置いてあるから、いい匂いがしている。(K)



2020年12月6日日曜日

地獄の窯の蓋

 大回顧展の案内状が届いた。ガハク愕然として、「才能のある人の地獄と、才能のない人の地獄はどっちが酷いんだろうね」と言う。どっちも同じだろう。才能に頼っている限りは、地獄の釜はいつだって蓋を開けて待ち構えている。落ちて来るのを待っている。

若い時からそうだったのかねえと聞いたら、「若い人はみんなそうでしょう。でも上手く行って成功したからそのままで終わったんだね」と言う。地獄から抜け出すことも欲しないまま最期まで酷い絵を描き続けていたとすれば、それはほんとうの消滅じゃないか。(K)



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