今朝『 Mの家族』の絵を眺めていて、これはやっぱり洪水後の世界だなと思った。もし私が舟を作るとしら、木を切り出して来て製材し、組み立てて行くのに都合がいい広くて平坦な場所を選ぶだろうから。あんな高いところでは船大工の足場をつくるのさえ大変だ。だからあの舟は、洪水がすべてを覆い尽くした後、ようやく嵐が止んで、やっと現れた陸地に錨を下ろしたんだよ。今でこそ山のてっぺんだけど、その時は小さな小さな島だったはずなんだ。
みどり生い茂るこの豊かな地上で、人だけが使うことを覚えた火が、森の奥で燃え盛っている。あの家には、とんでもないことが起きたのだ。想像はさらに悪いものを生む。だから昔の人たちは災いが自分らにまで降りかからないように黙っていた。知恵あるものの言葉に耳を傾け、ただ頷くのみ。家の外より、家の内の方が闇が深い。
洪水はまだ治まってはいないのだと、メルヴィルが『白鯨』の中で書いてる。いまだに地球の⅔は水で覆われているじゃないかと。犬が水辺に立っている。凛々しい姿で水を眺めている。
最期の日も散歩に川に出かけたトワン。その視線の先の風景は、きっとこの絵のような場所だろう。ガハクの目の中にトワンが住んでいる。(K)