2021年4月17日土曜日

新しい物語

ガハクが、「描き直そうと思って引っ張り出してはみたものの、どうしようかなあと迷っている」と言う。

これを描いた頃の想念まで降りて行くか、それとも、今の意識まで引っ張り上げるか。どっちにしろすぐには手を付けられそうもない。しばらく眺めていることになるのかな?

白い足がずいぶん生々しいから、あそこから入って行けばぐっと変わりそうだ。わずかな湿り気と明るい星空、辺りに漂う霊気は、見たことがある人でなければ描けないだろう。

でも、描き始めると見えて来るというのが本当だろう。きっとすぐに描き始めるよ。そしたら、また新しい物語が始まる。(K)



2021年4月16日金曜日

40年ぶりに彫り直す

40年前に彫った御影石の彫刻を彫り直すことにした。

3年前に突如倒れていたのを発見した時は、ずいぶん動揺した。誰が倒したのか、何があったのかすぐには理解できなかった。後で分かったのは、周りに密生していたリュウノヒゲという柴草が枯れて、地面に空洞が出来たから傾いてしまったのだった。

あの巨大な地震でも倒れなかったのに、草が枯れただけで簡単に倒れてしまうのにも驚いたけれど、除草剤をしつこく散布している隣人にも腹が立った。あの人のことをずっと怪しいと思ってもいた。

でも今は違う。この彫刻は重心がずれていて不安定なのだ。美術館の床ならまだしも、地面の上に設置していてはダメだったのだ。形も悪い。いつか彫り直そうと思っていた。でも、体力も時間もなかったんだ。

それが、解体作業で鍛えられ、気持ちもすっかり明るくなり、やる気が自然と湧いて来た。製材所のバイトも効果があった。まだやれるという自信が出たのだ。

「何が何の役に立っているのか最後まで分からないものだねえ」と運命の不思議について夕飯を食べながらガハクと話した。(K)




2021年4月14日水曜日

製材所のアルバイト

アトリエの引っ越しを一気に加速させ、助けてくれた製材所のフォークリフトが、これだ。普段は大きな丸太をこうやって機械の上に載せる仕事をしている。

太い丸太が台車の上に固定され、レールの上をゆっくり動いて行く。耳栓をしていても、帯鋸の鋭い騒音は頭の中に鳴り響く。お互いの声は聞こえないので、すべての指示はジェスチャーだ。モタモタしていると、耳元まで社長がやって来て大きな声で指導される。

「ちゃんと相手を見て二人で持たないと!」から始まり、「しっかり寸法通りに積み上げるように」になり、ついに今日は運び方のコツを教えてくれた。一挙に作業がスムースに進行。目標の12の山を積み上げて、今回のミッションは無事終了した。

よく冷えたリポビタンDが出て来たが、すーっと喉に入って、どこかへ消えた。ぜんぜん飲んだ気がしないほど、すっかり疲れちゃったんだ。

労働はアザとなって残る。ガハクは両腕に、私は太ももに何箇所もアザが出来ていた。知らないうちに、精一杯力を入れて材木を運んでたんだなあ。でも、疲れが癒えるとアザもやがて消える。今日は、よく働いた。(K)



2021年4月13日火曜日

やっと彫り始めた

毎朝、トワンのように庭を歩き回っている。だんだん賑やかで生き生きとした空間になりつつある。ここが、『ぞうけいのにわ』だ。20年前にホームページを作った時にサイト名にしたのだったが、遂に現実になった。春の花が、木に咲く花が、ピンクの花々が、生きよ生きよと歌っている。

今日は製材所のアルバイトに出かけたので、石は彫れなかったけれど、体力作りだと思えば何てことはない。労働の辛さは、日常の寂しさよりもずっと健全だ。孤独の意味を理解し引き受ければ、もっと逞しくなれる。

トワンは彫れば彫るほど笑う。この新しいアトリエに来てから、ずっと笑っている。(K)



2021年4月12日月曜日

エデンの門柱

ガハクは何となく上を見上げ、 シャッターを押したのだそうな。

その8時間後、私もまた同じ場所で鉄の柱を見上げたのだった。久しぶりだなあ、、、何年ぶりだろう、、、と思いながら。

自転車を押しながら門の脇をすり抜けて、エデンに入った。木々は大きくなっていた。小道を両脇から覆っている。ペダルは漕がずに、ほとんど押して登った。

トワンとよく走ったススキヶ原だけは乗車した。ここは、唯一私がウィーリー(前輪を持ち上げて後輪だけで走る技)ができた場所なんだ。柔らかな草が生えてクッションがあって転んでも痛くない。

どんどん押して登った。もっと行きたかったけれど、暗くなって来たので引き返した。行こうと思う日、登ってみようと思える日は、突然来るんだなあ。今日は、体力と意識がぴったり一致してたんだ。(K)






2021年4月11日日曜日

引っ張り上げてくれる絵

 画室を覗いたら、緑のエヴァをすっかり塗り変えている最中だった。振り向くと、この絵があって、輝いて見えた。そして、他の絵を引き上げようとしているのも分かった。新しい場所に連れて行ってくれる絵だ。

トワンもこんな風に彫りたいなあと呟いたら、
「そう思っている時には、必ずできるよ」とガハクが言う。

「裃付けているような絵なんか、薄っぺらでダメなんだ」と、きっぱり。(K)



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