2020年4月12日日曜日

小鳥が歌うように描く


ガハクが72日ぶりに筆を取った。どの絵から始めるのだろうと見に行ったら、倒れる直前まで描いていた『Mの家族』だった。しかも踏み台に乗って高いところを描いていた。

また絵が描ける日が来るなんて、しかも今日は日曜日だ、朝の明るい光線の中で描いている 、、、ジーンとする想いに浸っていたら、二階からドンと大きな音がした。慌てて階段を駆け上った。「尻餅をついたんだよ」とお尻を撫でていた。踏み台から落っこちたのだそうだ。後ろに何も置いてないし、カーペットが柔らかいから大丈夫だ。

ガハクのリハビリの過程を見ていると面白い。前日やれなかったことを、次の日はやれるようになっている。手が震えて紐さえ結べなかったのに、結べるようになった。ICUで初めて書いた字を今も覚えている。ぶるぶる振動する線が、急に大きくなったりしながらのたうっていた。絵を描く方が字を書くことより高度だと身をもって体験したガハクが、今日を選んだのは必然だったのだろう。何気なく始めたようだけど。

「僕はピカソを超えるよ」と微笑みながら言うガハクは、今は何も考えないで描いているそうだ。

絵の意味を問われて「あなたは、小鳥の声の意味を理解しようとするんですか?」と答えたというピカソはきっと小鳥のようには描いていなかったと思う。(K)


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