2021年5月22日土曜日

お前が落としたものはこれかえ?

 山道でガハクは四角形をしたゴムの小さなブロックを拾った。誰が落としたのだろう、ここは滅多に人が来ない場所なんだ。汚れてもいるし傷だらけだけど、何かに使えるかもしれないと思い、ポケットに入れて持ち帰った。家に着いて、改めて眺めていたら嫌になった。

何でもかんでも拾って来るのもいい加減にしないとなあ、と思ったらしい。で、ゴミ箱に捨てたんだ。

ところが、しばらくして「待てよ。あれは、僕の長靴の底にくっ付いていたものじゃないか?」と、突然閃いた。ゴミ箱から取り出し来て、長靴の底を見たら、空洞が出来ている。そこに当てがってみたら、まさにピッタリ嵌った。水が浸み込むようになっていた使い古しの長靴が、再び蘇った瞬間だ♪

「もう何年履いてるんだろう。トワンが生きている頃からずっと履いているんだよ」と、新しいゴム長も買ってあるのに、また古い方を履いている。(K)



2021年5月21日金曜日

満月に間に合うように

今夜は、YouTubeのマーエダさんのスピードに何とか二人とも着いて行けた。今度の満月はスーパームーンで大きくて、皆既月蝕まであるという。そんな特別な夜に、この曲を、軽やかに踊るように弾けたら最高だ。

「これは愛情を持って言うんだけどね、マーエダさんはダメだなあ」としみじみガハクが残念そうに言った。夕飯を食べながらよく彼のことを語り合うんだ。「僕は生き残ってみせるって言ってたけど、精神論や意思の力だけじゃやれなかったじゃん」と。

今夜初めて最後まで合奏できた。ギターのリズムが耳によく聴こえた。満月に間に合いそうだ。(K)





金色の水

ガハクがまた『泳ぐ人』を描き始めた。金色に光っているように見えたので、金色を使ったの?と聞いたら、使っていないと言う。レモンイエローとイエローオーカーと白が混ざり合った明るいタッチで塗られた水が、金箔のように見えたんだ。

生きている水は、見れば分かると書いている人がいたけど、ほんとかなあ。金魚を生き返らせる、生きた水が欲しい。(K)







2021年5月19日水曜日

夏のエヴァの木

頂上まで自転車で到達した日に、エヴァの木のことを思い出して探した。冬枯れの山にポツンと立っていた、あの白く輝く木を直に見てみたいと思って。でも、それらしい木は見つけられなかった。

家に帰って「エヴァの木はどこにあるの?」とガハクに聞いたら、
「頂上じゃなくて、もっと下の方だよ。だけど、見つけられないと思う。今はすっかり緑に覆われて、様子がすっかり変わっているから」と言われたんだ。

今朝のエヴァの木は、雨に濡れてテラテラと黒光りして、黒人の女の人のようじゃないか。(K)



2021年5月18日火曜日

少年ガハク

『少年老い易く学成り難し』
人は一年でこんなに成長できるのかと、胸が熱くなる。あの日から今日までのことを一つ一つよく覚えている。ガハクが倒れて、死にかけて、生還して再び筆を取るまで75日かかった。今日のガハクをハグすると、胸の厚みに驚く。こんなに愉快な日が訪れるなんて、一年前に想像できただろうか。

『意志あるところに流入あり』
生まれ変わることを与えられて、乗り込むように積極的に乗り出した。毎朝妖精たちに会いにいくと、山にヨチヨチ歩きで出かけていく姿は、ほっそりとして背が異様に高く感じたものだ。大学病院の廊下でリハビリを受けていた頃、歩行補助機につかまってゆっくり一歩ずつ歩き始めた時の背の高さ。看護師たちにも言われた「背が高いですねえ」って。あの月夜に見た白い人のようだった。すーっとまっすぐ伸びた体は、清々しかった。

『どうも死は無いようなんだよ』
死ねば楽になるなんてことはないそうだ。だから生きるしかなかったんだそうな。人工呼吸器の管を自分で抜いて「恭子に会わせてください」と言ったそうだ。ガハクは、69才になった。愛とか、生命力とか、意思とか、言葉が動くのを目の前で見ている。(K)


 

2021年5月17日月曜日

石屋と彫刻家

 ちょっと得た技術で、なるべく手間も時間もかけずに、見た目の良いものを作ろうとしていたから、この程度で満足していたんだなあ。表面処理にばかりにこだわって、ノミ痕を揃えることに熱心で、肝心の形が甘くなってしまっている。そんなの死んでも誰も見向きもしない。生きているうちに彫り直せて良かったよお〜♪

石屋にもなれない、彫刻家にもなれないアーティストだなんて、くだらない。(K)



2021年5月16日日曜日

お花の道

 山道にヤブデマリの花が散っている。自転車でここを通ると、いつも一枚タイヤにぺたっと張り付いて、山の上までそのままだ。

散歩から戻ったガハクの頭から、はらりと落ちたこともある。よく見ると、先は四つに別れてはいるけれど、元は一つに繋がっている一枚の白いシートだ。これは花ではなくて、きっと萼なんだな。

一昨日の鹿も、ここを通って降りて来るのだろう。所々に動物の足跡が残っているから。(K)



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