こんなに背中を彫るのが面白いとは、今まで知らなかった。背後、裏側、見えない部分、目立たないところにも 思いっきり時間をかけられるというのは、なんと幸せなことか!それに、広い作業台に載せ替えたのも良かった。部屋の中央に移動したら光も自然になった。夏はこの場所だと天窓からの熱気がモロに当たって辛いのだ。
冬に向かうこの季節の太陽は、大理石に美しい陰影を落とす。(K)
こんなに背中を彫るのが面白いとは、今まで知らなかった。背後、裏側、見えない部分、目立たないところにも 思いっきり時間をかけられるというのは、なんと幸せなことか!それに、広い作業台に載せ替えたのも良かった。部屋の中央に移動したら光も自然になった。夏はこの場所だと天窓からの熱気がモロに当たって辛いのだ。
冬に向かうこの季節の太陽は、大理石に美しい陰影を落とす。(K)
やっと映画『サクリファイス』を観た。立ったままで話す人たちの重苦しい会話がいつまでも続くので、これは堪らんなあと思いながら、目を離せずにいた。「これを見ても何も変わらないなんておかしいよ。僕はタルコフスキーのストーカーを見て変わったもの」とガハクが言うくらい、彼の美意識とガハクのそれは一致する。「ダビンチよりピエロ・デラ・フランチェスカの方がいい」と映画の中で郵便配達夫のオットーに言わせていた。
うちのパソコンの背景画像がウラジミールの聖母で、タルコフスキーの部屋にも同じ絵の複製が額に入れて掛かっていたのに気が付いた時はとても驚いた。人が人に繋がるときは、わざわざこっちから出かけて行かなくても、向こうからやって来るんだなあ。
「皆死を怖れているけれど、そんなものはない」と主人公の言う台詞は、何度もガハクの口から聞いた。死の恐怖を前にしてじっと佇むより、毎日水をやる、毎日絵を描く、毎日石を彫る、そういうことが木を生き返らせ育てることになるんだ。(K)
シャワーを浴びて出て来たガハクの体格を見て驚いた。胸筋がくっきり出ていて、まるで石膏像のヘルメスみたいだった。「男の人の胸の形ってほんとにあるんだねえ」と感心して眺めた。脚はウィリアム・ブレイクが銅版画に刻む人たちのようだ。
山で振る木刀代わりの枝も、ついに第二号を新調。古い方の枝は捨て難くて、庭の工房に大事に置いてある。テカテカに光っている。オイルを引いたのかと聞いたら、「木自体から出て来る樹脂だろう」とのこと。使い慣れた色と枝の曲がり具合が美しい。
私が6年かかって筋トレで鍛えた体力と体幹を ガハクは退院後の8ヶ月で作り上げた。命を救ってくれたのは先生や看護師。這い上がって来たのは本人の意欲。眠っている間も絶え間なく溺れぬように支えていたのはゴレンジャー部隊の格好をした天使たち。彼らの格闘ぶりを混濁した意識の中で眺めていたそうだ。ただ申し訳ないと思いながら。そして、祈りに応えてくれたのは、この冬のひかり。(K)
今朝は二人とも6時に起床。まだ薄暗かった。「青白いね」と窓の外を眺めてガハクが言う。7時にやっと西の山に太陽がさして、朝ごはんを食べ終わった頃には、庭いっぱいの日差し。南天の赤が鮮やかに光っていた。
今日は早くアトリエに行けたから、いっぱい時間があってトワンも彫ることができた。1日に二つの彫刻を彫る為には、時間と体力、そして食べ物が必要なんだ。弁当だけじゃなく、おやつまで持って出かけたので余裕があった。
いい腕を持つものがゆっくり作ったものが最高なんだとミケランジェロは言ったそうだ。霊的な領域のことだろう。そういう生き方も状況も自分では選べない。与えられたら引き受けるということさえなかなか難しいのだけれど、たまにそういうことが起きる。
太陽は追いかけずに迎えに行けばいいのだ。夜明け前に起きて解った。(K)
この絵を見て一斉に「きゃーっ!」と叫んだ若い女性たちのことを思い出した。まだ隣の借家に住んでいた頃のことだ。ときどき仲間で誘い合って遊びに来てくれた。絵の中に描かれている狭いキッチンでワイワイガヤガヤ皆でコロッケや春巻きを作っては揚げ、パーティーをしていたんだ。お腹いっぱいになると、裏山に皆で登った。犬を先頭に、猫は留守番だったかな?適当に暮らしていたのだ。
「白い人が出たのはどの辺りですか?」と、聞く。すでに彼女らは、ホームページに載せている『白い人』の絵とその経緯を知っていて、これからミステリーゾーンに踏み込むぞという感じだったのだろう。ガハクが「今立っているその辺り!」と指さした途端、「きゃーっ!」と抱きついて来たっけ。
絵の中の犬はトワンに描き変えられているようだ。前の犬は、いっしょに踊ったりはしなかったし、黒猫はトワンが来る前に死んじゃっていたし。
「ナイフを使って描いているから、新しいね。あの頃はまだこんな風には描けなかった」とガハク本人の証言もある。古い絵を引っ張り出しては描いているのは昔からやっていたことだった。燃やしたものもあるし、ズタズタにナイフで切ってゴミに出した絵もあるが、こうやって変容して成熟していく絵もある。真実が立ち上がって来て初めて鮮やかに描けるんだ。
窓から風が吹き込んでカーテンが揺れているなんてことになっているとは、今まで知らなかったよ!いつ描いたの?(K)
背中を彫っていたら、垂線が気になって来た。
作業台に水平器を置いて傾きを修正。地面に直に置いた太い丸太が作業台だから、ときどき確認しないと、いつの間にか曖昧で不安定な空間に入り込んでしまっている場合があるんだ。
今日は肘と脇の間の空間を直した。
厚みのある背中 にふんわりとした翼を 編むように彫ろう。(K)
こんなに柚子がどっさり降って来た。しかも木から捥いだばかりだという。いい香りだ。新鮮なうちにと、日曜日の朝から柚子ジャムと、ゆの酢作りに励んだ。
柚子ジャム:ストーブの上にかけた鍋で湯通しすること2回。それを細かく刻んで、絞った果汁と一緒にグラニュー糖を徐々に加えながらコトコト煮詰めていく。15個の柚子で4瓶できた。パンに塗って食べると最高なんだ。
ゆの酢:30個の柚子を皮付きのまま半分に切った。種もそのままで、マッシャーでぎゅーっと絞ると、じわじわと皮のオイルと果肉から滲み出るエキスが混じり合って出て来る。半透明の明るい黄色の汁は、香りもなかなか強烈だ。
ちょっと疲れたので、途中でガハクに交代。私より背が高いし、前と違って今は10Kgも重い。体重をかけて圧搾しているうちに、「もっと小さく切った方がしっかり絞れるよ」と更なる工夫も加わった。で、1ℓも採れた。
このマッシャーは、分厚いアルミで出来ている。外国製のようだ。東京に出たばかりの学生の頃、スーパーの一隅に机を出して実演販売しているおじさんから買ったのだ。フルーツジュースもマッシュポテトも野菜ジュースもこれひとつで作って来た。もうすぐ50年になるんだぜ♪(K)