2019年6月15日土曜日

分からなかったことが分かった

注文があったのをキッカケに昔の版の刷りを始めた。
引き出しの奥から銅版を取り出した。ビニールパックされけっこう綺麗に保存してあった。
改めて刷ってみると初刷り当時の思いが蘇ってくる。あの時、技術的な問題にずいぶん悩まされていたのを思い出した。どうして一定の刷りにならないのか、予想した通りに刷れないのか、版の状態と刷りの結果が噛み合わないのはどうしてか、など…今ならそれらの理由が全部分かる。それだけ進歩しているということだ。
インクを拭き取った後、赤い油絵具を版面に筆で塗るという二色刷りで数枚刷った。今の所これが一番いい。でももっとやれることがある。(画)

2019年6月14日金曜日

説得しない眼

話しかけているこの人の目がやっと彫れた。4人と1匹の目が生き生きとして来たから、この彫刻も完成に近づいたようだ。

それにしても最後の最後まで手こずったこの人の目。説得しているような強い視線が柔らかくなるまで随分時間がかかった。少しずつ、気が付いた時だけ彫るようにしていたのだけれど、とうとう昨夜「うん、これでいい!」と思えた時は嬉しかった。一番小さめのヤスリで絵を描くように瞳と瞼をいじっている時だった。

やりたいことをやった後に本当にやりたいことが純粋な形で現れる。美はすっかり用意ができているところにすーっと入ってくる。(K)


2019年6月13日木曜日

画家のキャリア

こういう絵を描いていると小学生から中学生にかけて漫画ばかり描いていた頃を思い出す。家に略画事典なるものがあった。同じテーマで違ったタッチの絵が並んでいた。そういうのを写しながら「描き方」というのを学んだ気がする。
中学卒業後は描いていないと思っていたら高校時代に描かれた漫画の原稿が実家に残っていたので、結局ずっと絵を描き続けていたことが分かった。
で結局未だにそういうのを描いている。思えばずいぶん画家のキャリアとしては長いではないか。(画)

2019年6月12日水曜日

感触のリアリティと記憶の異化

滑らかな毛並み、くっきりとした黒い縁取りのある目を思い出しながら、今夜はトワンのところに張り付いていた。夜の9時になってやっと尻尾まで来た。尻尾を砥石で削り出していたら、急に寂しくなった。鼻先や目をいじっている時は何とも思わなかったのに、ぽわっと膨らんだ毛の房を思い出すとしんみりしてしまう。

ガハクも今日は山でトワンのことを思い出して泣きそうになったそうだ。夏に向かうこの緑の中にトワンがいないのがしみじみと悲しいと言う。「四つの季節を一回り廻らなければこの感情は収まらないのだろうね」 とも言うガハクは、きっと独り山の中で涙を流したんだよ、トワンどうする?(K)


2019年6月11日火曜日

思い出したくない記憶

今度の展覧会に出品しようとキャビネットを探したが見つからず暫く途方に暮れたが、収納用の筒に入れっぱなしだったのを思い出した。幅が広すぎて平らな状態では引き出しに入りきらなかったから丸めておいたのだった。
油絵を描かずに木版画ばかりやっていた時期の作品だが、今ではそれがいつ頃のことでその時どんな心境だったのかもはっきりとは思い出せなくなっている。年々減退する記憶力のせいでもあるのだろうが、精神的に苦しく辛い時期だったということもあって、思い出したくない記憶の箱のなかに一緒に入れてしまったのだ。(画)

2019年6月10日月曜日

風にそよぐマント

マントの裾を葉っぱの軸の方へ流してみたら、後ろから見たシルエットがやっと美しくなった。形がキュッと締まった。ずっと引っかかっていたことが解決して嬉しい。

一人の足の位置が決まると、隣の人に連鎖してその足の位置も確定できる。そしてその人の着ている服や履物が優雅になり、またその横にある植物の肌合いが緻密になる。それまで引っかかっていた問題が次々と解決していくのが面白い。そうやってぐるっとゆっくり回っていって、今夜はトワンの足元まで行けた。

明日はトワンの体を滑らかに研ぎ出してみよう。(K)


2019年6月9日日曜日

描くものがあり過ぎる

他人の作品に衝撃を受け、自分の絵が描けなくなったとか挙げ句の果ては筆を折ったとか…どうしてだろう?自己の制作態度の真摯さをアピールしたいのか?俺こそはホンモノを知っているとでも主張したいのか?本心から言ってるならいつも不正直な絵を描いているんだろうたぶん。僕の過去に何度かあった衝撃体験は確かにガンと打たれるようなものだった。でもそれは絵をやめようと思わせるなんてものでは一度もない。それはいつも喜びに満ちた快いものだった。お前も勇気を持って精一杯やれという強いメッセージだった。
描くものがあり過ぎて困る方が描くものがないよりずっといい。描かねばならない部分が多過ぎて困る方が完成してしまうよりいいのだ。(画)

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