2021年6月11日金曜日

鹿の寝床

 ここはエデンの真ん中辺り。柔らかな草が繁茂している。よく見ると丸く押し潰された場所があちこちにある。鹿が寝た跡だ。夜になると平らな草原に丸くなって、ときどき寝返りなんか打つんだ。小枝が近くに転がっているから、むしゃむしゃ枝を齧りながら眠りについたりしたのかな。やさしい風に包まれて、安らかな一夜を過ごすのだ。(K)



2021年6月10日木曜日

ゴッホ以上の不幸はない

 苦しかった頃にガハクが、「大丈夫だよゴッホがいるから。彼以上の苦しみはもうないよ」と励ましてくれた。その時、「僕がゴッホの奥さんだったら、決して死なせなかったのになあ」とも言った。彼は自分の絵の価値を知っていたのに、惑わされ苦しみ悩んで自ら命を絶った。理解者もいたのに。支援してくれる弟に申し訳ないとずっと負い目を持ち続けていたんだ。そういう純粋な人の苦しみにすーっと潜り込んでくる卑しい意識、くすんだ想い、自己否定の葛藤から守ってあげることは、同じように絵を描くことに喜びを持っている人にしか出来ないだろう。

ガハクが山を描いている。自転車が出て来たぞ。トワンがガハクの後を追いかけている。「今年はトワンが来るよ」という予言はどういう形を遂げるのだろう。未だに謎だけど、ガハクの言葉を信じよう。(K)



2021年6月9日水曜日

夏至まであと12日

午前9時。朝から日差しが強いので、金魚に日除けをしてやったら、水の底でいつまでも眠っている。水温というのは、そんなに急には上昇しないんだな。それにしても今朝の金魚たち、全員寝坊なのはおかしい。

午前10時。彫っている石が太陽に照らされているのが見えた。だんだん蓄熱されるのは彫っている方も辛いので、急いで外に出て、アルミブランケットを東側にぶら下げた。

11時から5時半まで石を彫った。午後遅くなっても山に隠れない太陽。いよいよ夏至が近づいて来て、ついに裏庭まで照らされた。

午後6時。いつまでも明るいから急ぐこともないかと、自転車を押してゆっくり歩きながら景色を眺めた。鹿が齧った痕がある。何という木だろう?よく観察して、鹿の好物の木を特定しよう。(K)



2021年6月8日火曜日

節理を読む

石の摂理が厳しくて突然ガバッと剥がれたりするので、石と相談しながら彫っている。ボソボソの脆い石もゴツゴツの硬い石も、弱点を持っている。それが分かっていれば何とでもなる。柔らかな太陽の花を彫ろうとしている。(K)



2021年6月7日月曜日

Justice

町田康の 『告白』、わたしが先に読み始めたのに、とうとうガハクに追い越され、今夜は最終章を静かに笑いもせずに読んでいる。あんなに途中でしばしばクククッと含み笑いや苦笑いをしていたのにだ。熊太郎が可哀想の一心だろう。あ、今鼻をすすった。

途中でやっぱり私は読めなくなった。ガハクの解説を聞いているくらいの距離がちょうどいい。

「読んでいると頭が澄んでくるね。鋭くなる」と言う。正義があると思っていたのに、ちっとも世界はそんな風には動いていなかったことを知る熊太郎。今日は彼と同じ目に合わされた。家庭内のDVや利害や狡猾が他人に向けられる。忌まわしく汚らしい言葉を当然のように語る人たちにうんざりしながら、憐憫を感じつつ労働に勤しんだ。黙って即座に動ける体力と気力は普段から鍛えてある。

ガハクは、敵に対して仁王立ちして正面から見据える。熊太郎のことを解る人は少ない。事件が明るみに出てニュースペーパーを騒がせるようになると乗っかってくる連中はとても多い。それが世間。うんざりだ。やめたくなる。(K)



2021年6月6日日曜日

水を得た魚

 昨日転んだ山道に、最後までしがみついていた悪霊を落っことして来たらしい。今朝は気持ちが軽かった。その証拠に、起き抜けに測った血圧が素晴らしかった。何回計っても上が130台、下が70台。こんなことは初めてだ。血圧計を買って以来だから、20年かかって遂に達成!

何が効いているのか考えてみると、魚、豆、睡眠、自転車、筋トレ、、、、いろいろあるけれど、アトリエを引っ越したことが大きいかな。もう憎悪を投げてくる奴はいなくなって、ここではガハクがノミ音を聞いてくれるし、小鳥たちは石彫る音に重ねて歌ってくれる。なんてたってガハクの生還以来、食事と睡眠には気をつけているからね。

今朝ガハクは山散歩に出かけて、私が転んだ場所を特定し、「石を片付けておいたよ」とのこと。今週は梅雨の中休みでいいお天気が続くそうだから、ペダルを漕ぐぞ!(K)



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