2020年7月18日土曜日

ジャガイモが採れた

雨の合間にジャガイモを掘り上げた。これがうちの一年分のジャガイモだ。

冬から周到に準備した畑の獣よけは完璧なようで、今のところ猪にも猿にも突破されていない。(去年は散々だったからなあ、、、この1割も採れなかったんだ。)
収穫した芋を入れた袋を畑から運び出すと、ひんやりとした山の空気に包まれた。太陽は雲に遮られて、汗もそんなにかかなかった。

芋に付いた土は洗っちゃダメなんだ。すぐに傷んで腐り易いからだ。通気性の悪い箱に入れるとカビ易いので、こうやって日陰でしばらく乾かしておく。ネズミや獣の来ない場所で。

まずは小さな芋から食べる。中華鍋に胡麻油を入れてコロコロ転がしながら炒める。そして、赤味噌と味醂と唐辛子で甘辛く煮詰める。これがこの土地に来て教わった食べ方だ。なんとも野趣があって、大好きだ♪(K)


2020年7月17日金曜日

テップリングツール

ビュランの形にもいろいろあるのだけれど、その使い方を「誰も教えてくれない」とガハクは言う。唯一参考にして来たのが、駒井哲郎の『銅版画のマチエール』という本だ。藝大で直に教わったこともあるガハクだが、先生はビュランを研ぐのが苦手だったそうで、もっぱらエッチングだった。氏の本だけを頼りに試行錯誤を繰り返しながらここまでやって来たガハクである。

先端がクルンと曲がっているビュランのテップリングツールは、どうやって使うかずっと分からなかったのだけれど、最近ガハクが、「どうも点々を打つのに使うみたいだね」と言い出した。幾つもの点を跳ねるように次々と刻んで点線を彫る道具らしい。

「ブレイクの銅版画を見ると、テップリングでやっているみたいな所があるんだよ。でも確証は無い」と、あくまで慎重だ。

机の上の奥の方に削った銅粉が溜まっている。いつ見てもこういう風に粉が向こうへ押しやられている。お正月も、病院に入っている間も、ずっと銅粉が積もったままだった。
「ときどき掃除しているよ」と言い訳も言う。そりゃそうか。確かに、いつ見ても同じ量だものね o(^ー^ )o(K)


2020年7月16日木曜日

胸が生き始めた

どんどん削っているから、ずいぶんほっそりして来た。ここまで来ると気持ちが解放される。冒険は終わりだ。ここからは好きなように思うようにどこまでも彫り続ければ、やがて美しい野に出ることは分かっている。もう花の香りが漂って来たから。(K)


2020年7月15日水曜日

プロメテウスの石

エデンを抜けてしばらくすると、見晴らしの良いところに出る。ガハクの山散歩の最終地点がここだ。そこに大きな石が転がっている。重さにして7〜8トンくらいはあるだろうか。きっとこの石も上から転がり落ちて来たものだろう。元からここにあった石じゃないことはすぐ分かる。大昔からここにあれば、こういう風に地面から浮き上がってはいないものだ。

この大岩を『プロメテウスの石』と呼ぶようになってもう数十年経つ。その頃、シモーヌ・ヴェイユがプロメテウスとキリストを重ねてイメージしているのを読んでいたからで、ギリシア神話に出て来る彼のことをキリストよりも親しく想うようになっていた。(シモーヌ・ヴェイユはギリシア哲学が専門なのだ)

プロメテウスが神の元から火を盗んで来てくれたおかげで、暖を取り、料理をすることを覚えた人間は、その後武器を作り、空を飛び、巨大な破壊力を持つ原子爆弾まで落とすようになった。

そしてもうひとつ、プロメテウスが持って来てくれたものが鉄の輪だ。コロコロと回る輪が車になった。自由を手に入れた人間はどこにでも出かけた。なのに今は、コロナでどこにも行けなくなっている。go to キャンペーンなんて、鉄の輪が人の首を締め付ける道具になっている。

ヨゼフ・ボイスが「原子爆弾を作ったのはキリストだ」と言っていた意味が、今やっと分かった。何を与えても歪めてしまう人間の欲望にはキリがない。

それでも前へ進もう。元には戻りたくない。新しい時代はすぐそこまで来ている。(K)


2020年7月14日火曜日

ソルダム

この庭には元からスモモの木があったのだけれど、なかなか実が付かなかった。そのうちに、異種間受粉で実が生るのだと知って、ソルダムの苗を買って来て植えたのが15年前。

今朝窓から眺めたら、雨に濡れた赤い実を見つけた。早速外に出て傘の先で突っついたら、簡単に落ちた。地面にすでに一個転がっているのも含めて3個収穫。あと枝に残っているのはこの二つ。他にもあるかもしれないけれど、あっても一つか二つだろう。

今夜は裏山から猿の声が聞こえる。ネットもかけていないのに、トワンもいないのに、よく採れたなあ。完熟したソルダムの実は、大層甘くて瑞々しかった。(K)


2020年7月13日月曜日

花を見つけた

ガハクが退院してから描いたのは、大きな絵『Mの家族』と、この小さな絵の二枚だ。何を描こうとしているのか聞いたことはないけれど、タイトルは何?と尋ねたら、
「"花を見つけた" 、だから花を描かなきゃね」と言う。

ここまで描いた後は、ずっと置いてある。花が向こうからやって来るまで放っておくつもりだろう。自分から迎えに行っちゃ大した花は描けない。香りのない花を描く人の多くは、他人にその絵を見せようとして描いているからだ。花と出会ったこともないくせに。

キッチンの窓を開けると、白い木槿の花が見える。二階の画室から見下ろしたら、いっぱい咲いているのが分かった。自然と生え出て来た木で、何処から種が飛んで来たのか、運ばれて来たのか、いつの間にか大きくなって、5年くらい前から花を付けるようになった。木綿の白いワンピースのような皺が花びらに適当に影を付けて、涼しげなんだ。(K)


2020年7月12日日曜日

園長石

この木は臭木(クサギ)と言って、葉っぱを揉むと嫌な臭いがする。でも触らなければ、涼しい木陰を作ってくれる見た目には優しい梢だ。

臭木のアーチを抜けた辺りに、石が見える。あの石は、ある日突然そこに現れた。真っ先に見つけたのがトワンで、盛んにくるくる石の周りを回って臭いを嗅いでいた。怪しい奴だと思ったらしい。山の上の岩盤から剥がれた浮石が転がり落ちて来たのだろう。ここはそんなに急ではないが、上の方は急斜面だ。ゴロゴロと一旦転がり始めたらなかなか止まらない。

どんなに安定していても、重いものはやがて落ちる。異界から落ちた者は、まだそこらの匂いに馴染んでいなくて浮き上がっている。もうあれから10年、風景に少し溶け込んで来た『園長石』、私が付けた名だ。(K)


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