エデンを抜けてしばらくすると、見晴らしの良いところに出る。ガハクの山散歩の最終地点がここだ。そこに大きな石が転がっている。重さにして7〜8トンくらいはあるだろうか。きっとこの石も上から転がり落ちて来たものだろう。元からここにあった石じゃないことはすぐ分かる。大昔からここにあれば、こういう風に地面から浮き上がってはいないものだ。
この大岩を『プロメテウスの石』と呼ぶようになってもう数十年経つ。その頃、シモーヌ・ヴェイユがプロメテウスとキリストを重ねてイメージしているのを読んでいたからで、ギリシア神話に出て来る彼のことをキリストよりも親しく想うようになっていた。(シモーヌ・ヴェイユはギリシア哲学が専門なのだ)
プロメテウスが神の元から火を盗んで来てくれたおかげで、暖を取り、料理をすることを覚えた人間は、その後武器を作り、空を飛び、巨大な破壊力を持つ原子爆弾まで落とすようになった。
そしてもうひとつ、プロメテウスが持って来てくれたものが鉄の輪だ。コロコロと回る輪が車になった。自由を手に入れた人間はどこにでも出かけた。なのに今は、コロナでどこにも行けなくなっている。go to キャンペーンなんて、鉄の輪が人の首を締め付ける道具になっている。
ヨゼフ・ボイスが「原子爆弾を作ったのはキリストだ」と言っていた意味が、今やっと分かった。何を与えても歪めてしまう人間の欲望にはキリがない。
それでも前へ進もう。元には戻りたくない。新しい時代はすぐそこまで来ている。(K)
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