2020年10月10日土曜日

新しい青

絵具メーカーも考えていて、次々に新しい色を出しているそうだ。ちょっと軽かったり、ハデだったりする。ガハクは最近そんな新しい色も取り寄せて使ってみている。「今まで使ったことのない色が画面にひとつ入るだけで、周りに影響が及ぶんだよ」と言っているから、きっとこの青がそうだろう。「空にも塗ってあるよ」と言う。そうでしょう、変な空だもん、すぐに分かったよ。

調和、説得、魅了というような目的で描いていないから。かと言って、個性、自我、克己ということでもない。「病気くらいした方がいいよ」と言う今のガハクには、はっきり見えているものがあるようだ。(K)



2020年10月9日金曜日

フンコロガシのモチベーション

 朝から冷たい雨が降っていた。雨の日も散歩に出るようになったガハクは、林道の入り口に置いてある木刀代わりの枝は持たずに、傘をさして登っていく。

なんで毎日登るのかと言うと、大股で歩くとか、急ぎ足で歩くとか、いろんな工夫をしているうちにだんだん体力が付いて来て面白くなったからだ。それに加えて、動物たちが残した痕跡を読み取れるようになったことも大きい。

鹿の溜め糞も見つけた。それをフンコロガシが2匹で協力して運んでいるのも観察したガハク、「なだらかな場所まで運んだら、あとは任せたよという風に1匹は他の方に向かう。仕事の段取りを考えているみたいだ」という。フンで穴を塞いでいるようだが、何のためにやっているのか、ほんとに必要な仕事なのか、それにしてもあまりにも勤勉過ぎる。次の日には鹿のフンがすっかり無くなっているそうだ。

好きでやっていることが活動なんだな。モチベーションこそ生命力だ。(K)



2020年10月8日木曜日

すこやかな胸

 今朝のガハクの顔色が素晴らしくて、角度を変えて何度も眺めた。ステロイドの投薬が終わって3ヶ月経って、やっと爪の段差(闘病中に伸びた爪は色も悪くて、指先を使わないから内側に折れ込んでいたのだった)が無くなって、足首に残っていた浮腫もほぼ消えた。

アメリカ大統領のトランプ氏が薬の影響で躁状態なのだそうだが、確かに薬の影響が消えるまでずいぶん長いことかかるのだ。元に戻ることができれば御の字だと思っていたが、ガハクの場合は前よりも良くなった。胃弱が治った。胸が厚くなった。髪の毛が生え揃って来た。オーバーホールしたということだな。

でも一番大きなことは、絵を描くことが生活の真ん中に据えられたことだ。喜びを持ってやれるようになったことだ。

だから彫刻も、すこやかな新しい胸に作り変えることにした。痩せっぽちの貧弱な胸はあたたかな曲面に包まれて白く発光するようにと、砥石の番数を前に戻した。形も変えた。顔も研ぎ直している。あたたかな優しい人が生まれるように。(K)



2020年10月7日水曜日

鹿の足跡

雨上がりの山道にくっきりと残った足跡は、偶蹄類特有の二つに分かれた爪の形をしている。鹿に間違いない。夜は草むらで寝転んで眠るのだろうか?そう思って見渡せば、草がぺたんこになって丸く押し潰されている場所が所々に残っているそうな。

山の樹木の影や草むらからひょっこり頭を出して、ガハクが山道を登って来るのを見つめている目がある。無数の動物たちの目だ。小鳥たちの小さな目だ。

死んだトワンの姿を求めて歩いていた人は、今はせっせと落ちている栗を拾い集めては山道に並べている。「食べてくれたかなあ?」と楽しみにして毎朝山に出発する。今朝は庭の小林檎を3個ポケットに入れて出かけた。

悲しみは楽しみになり、喜びを生む。不思議だなあ。まるっきり反対にある情動と行動のように思えるけれど、トワンも鹿も鳥もみんな一つの大きな目だ。優しい人を知っている。(K)



2020年10月6日火曜日

水辺に佇むトワン

 10時になってガハクが二階から下りて来た。もう夜の部終了だ。朝早く起きるには、夕飯を早く食べることだと分かった。お腹が減るから自然と起きちゃうのだ。明るい昼間に活動していると、いろんなことが起きる。小鳥の声が1日の始まりで、虫の声で今日が終わる。Tシャツから出ている腕が日に焼けている。この夏は昼間に自転車で行き来しているから、やっぱりいつもより日焼けしたのだ。でっかい白菜が育っているのも、よく世話をしているからだな。

大きな画面のあっちこっちを行き来しながら今日もガハクは忙しかったようだ。どこが変わったのだろうと夜の画室に入ってじっと見つめていると、森の中の草がざわざわと動き出しているのが見えて来た。トワンはそのままだ。いつもの位置でずっと佇んでいるけれど、周りの草も木もどんどんおしゃべりになっている。水が動き出した。黒い淵に魚影が見える。あれは蛇のようだけど、藤蔦だ。ぐるぐる巻き付いて木を苦しめるけれど、春には薄紫の花で山を香らせる。何が何のためにあるのやら、ただじっと見つめているトワンがいちばん愛おしい。(K)



2020年10月5日月曜日

受粉の朝

 長カボチャの花が開こうとしている。これは雌花だ。もう軸のところが少し膨らんでいる。

人工授粉というのをやってみた。雄花を2輪ほどちぎって手に持ち、雌花を探して葉っぱを掻き分けながら進んだ。でも、やっと見つけた雌花はすでに萎んでいたり、実が黄色くなって腐っていたりしていて、タイミングよく受粉させるのはなかなか難しいようだった。で、すぐにやめて、虫に任せることにした。

この花は明日開くだろう。黄色の羽をしたテントウムシたちが、花から花へと飛び回って、花びらをむしゃむしゃ食べている。きっとあの子らが、この花の受粉をやってくれるはずだ。

蜘蛛の糸が秋の日差しにキラキラ光っている。小さな虫がときどきピタッと飛ぶのを止める。蜘蛛の巣にかかったのだ。長い棒を持って来て、ぜんぶ払い落としてしまおうかと思ったが、それも止めた。

自転車で走っていたら、目の前の路上に小さな蛇が這いずっていた。タイヤで踏めば一発で死んじゃうだろうと思ったけれど、大きく避けて通過。みんな何かを食べて生きているんだ。無事に過ごせよ、なんとか生き抜けよ、という気持ちだ。(K)




2020年10月4日日曜日

磨くほど鋭く強く

 毎日このガハク像に砥石を当てることから始めている。磨くことで変化する石の色を見ながらやっているので、わざと砥石の400番のままにしてある所と、600番まで磨き上げた場所があるのだけれど、違いが分かるだろうか?例えば袴の帯は高い番数で磨いてある。今日は手を磨いたので、まだ水で濡れている。石は濡れると色が濃くなる。結晶の内部の色が透き通って見えるからだ。

顔はもう一度引き締めなくちゃいけない。砥石とノミとヤスリのぜんぶ使って。そのうち見えてくるだろう。ガハクの胸は今はもうこんなじゃない。筋肉でふっくら盛り上がっていて、安定の60kgだ。(K)



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