雨上がりの山道にくっきりと残った足跡は、偶蹄類特有の二つに分かれた爪の形をしている。鹿に間違いない。夜は草むらで寝転んで眠るのだろうか?そう思って見渡せば、草がぺたんこになって丸く押し潰されている場所が所々に残っているそうな。
山の樹木の影や草むらからひょっこり頭を出して、ガハクが山道を登って来るのを見つめている目がある。無数の動物たちの目だ。小鳥たちの小さな目だ。
死んだトワンの姿を求めて歩いていた人は、今はせっせと落ちている栗を拾い集めては山道に並べている。「食べてくれたかなあ?」と楽しみにして毎朝山に出発する。今朝は庭の小林檎を3個ポケットに入れて出かけた。
悲しみは楽しみになり、喜びを生む。不思議だなあ。まるっきり反対にある情動と行動のように思えるけれど、トワンも鹿も鳥もみんな一つの大きな目だ。優しい人を知っている。(K)