2020年4月4日土曜日

リンゴの花が咲きそうだ

アルプス乙女の花が今にも咲きそうだ。本命のツガルの方はやっと蕾が出て来たところ。両方の花がいっしょに咲いてくれれば互いに受粉し合って実がいっぱい付くのだけれど、毎年ずれてしまう。

まだトワンが生きていた一昨年は、100個以上も実が生った。トワンがいなくなった去年は10個しか採れなかった。犬がいれば猿は来ない。来ても吠え付いて蹴散らしてくれるのだけど、仕方がない、今年もネットを張ろう。アルプス乙女の最後に咲いた花と、ツガルの最初に咲いた花が受粉し合ってくれるだろう。

今日のガハク:退院後初めて散歩に出た。踏切の近くで隣の子に会ったので、「こんにちは」と呼びかけたらキョトンとしている。「隣のおじさんだよ」と言ったら、「あゝ思い出した!」と答えてくれたそうだ。もう2ヶ月以上、もしかしたら冬に入ってからずっと会っていなかったかもしれない。子供は素直だ。思ったことをそのまま言葉にして顔に出す。「思い出してくれて良かったあ。じゃあね」と別れたそうだ。(K)


2020年4月3日金曜日

67の誕生日

今日で67になった。激動の2ヶ月を乗り越えて迎えた誕生日に、朝から高揚していた。

あと1週間でガハクの病院通いも終わりだと思っていたけれど、もう少し伸びるらしい。肺の傷を確かめるために 来週CTを撮ることになった。「こんな時期ですから」と先生はコロナのことを心配している様子だった。肺に少しでも弱点があると、そこがまた肺炎を起こし易いのだそうだ。そういう古傷に起きる肺炎を『器質化肺炎』というらしい。人工呼吸器で奇跡的に助かった肺は相当なダメージを受けたはずで、完全に治ったとは言っても、慎重に傷の痕を確かめておきたいということだった。

突然できた気胸でさえ自然と塞がったガハクに起きた奇跡を CTは映し出すことが出来るだろうか?

怪物とは化け物のことだ。この世にもあの世にもいる怪物。死を持ってしても逃れられない怪物を ガハクは混濁した意識の中で見て来た。その実態を知りたくて、今日はずっとガハクにインタビューしながらハンドルを握っていたけれど、まだ完全には捉えられない。それはとても怖ろしいものだそうだ。あんな怪物に(怪物の世界に)飲み込まれるくらいなら死んだ方が増しだと思ったが、死んでもずっとついて来るので生還するしかなかったのだという。コロナで亡くなったコメディアンがあの怪物に捕らえられたままでなければ良いがと、ガハクは本気で心配している。(K)


2020年4月2日木曜日

簡易温室

簡易温室を作って、夏野菜の苗を外に出した。太陽の軌道が高くなって、縁側に日が入らなくなったからだ。2月の末に種を蒔いて部屋の中で育てて来た。今やっとキュウリは胡瓜の、カボチャは南瓜の葉っぱの形を見せ始めている。あとひと月したら、トマトと胡瓜は庭に、南瓜とナスとピーマンはアトリエの畑に定植する。

今日はアトリエの畑にジャガイモをぜんぶ植え付けた。獣よけの柵を作る作業に手間取っていたから4月になってしまった。こんなに遅くなってジャガイモを植えたのは初めてだ。いつもお彼岸前には終わっているのに。ガハクの入院は生活のテンポを狂わせた。でも、おかげで朝早く起きれるようになった。しかも二人とも同時に起きている。何十年も数時間ずれていたのにだ。

何かを始めたい、何かを止めたい、何かをしたい、何かを、、、依存と中毒からの離脱にも使われる入院だけど、新しい世界に引っ越すきっかけも与えてくれる。明日は私の誕生日だ。ガハクの通院日でもある。ステロイドがついに一錠に減らされる。あと1週間で完治宣言が出る。帰りに苺を買って来よう。ケーキを焼こう。明日はハレルヤ♪(K)


2020年4月1日水曜日

胸を磨く

昨日は掃除機をかけただけでバテてしまう自身の筋力低下にすっかり失意のガハクであったが、今朝は上半身を鍛えるのにエキスパンダを持ち出して来た。

「バネが2本でもキツいんだよね」とやって見せてくれた。確かに、伸ばした腕が途中で引き戻されてしまっている。まずは1本バネからスタートだ。トレーニング用エキスパンダを使うのは効果的で、体を壊すということはないのだそうな。

大理石の胸を砥石で磨いていると、ガハクの肺の形が浮かんで来る。気胸はこの辺りにあったんだよねとか、ここの右肺の上が萎んでいたとか。だけど次の日には塞がっていて、、、あの時はほんとに嬉しかった。「奇跡がまた起きたよ」って電話口から聞こえるガハクの弾むような声に耳を澄ましていた。

医師は体の中の小さな傷に集中する。レントゲンの白い影を見逃さない。胸の中の出来事を知っている。あの視点が得られたら私ももう少し賢くなれる。(K)


2020年3月31日火曜日

雨合羽着て畑仕事

霧雨は止みそうもない。3月は今日で終わり。ジャガイモはまだ半分残っている。ネットが先か、ジャガイモが先か、しばらく迷った。覚悟を決めて雨合羽を着込んだ。

昨日のうちに柵囲いの入り口は作っておいたので、 あとは杭を打ち込んで、支柱を立て、紐で結んで、ワイヤーで引っ張って、ネットを被せるだけだ。簡単だと思って勇んでやり始めた。雪が降る冬場は支柱を倒せば撤収も楽。こういう知恵はだんだんと付いて来るもので、我ながら大したものだと思っているんだけど、ネットの破れを見ると、去年の悲惨な敗退が思い出されて少し辛かった。猪は何度も裾を鼻面で破って侵入。猿はネットの劣化した部分を引き裂いては里芋とカボチャを盗んで行った。だから今年こそは、手抜き工事はぜったいにやらない。少しの緩みでも獣達は見逃さないから、気を引き締めてしっかりやった。

煙突から紫色の透き通った煙が立ち昇っていた。体がすっかり冷えたから今日はここまで。アトリエの中に入るとぽかっと暖かった。ジャガイモの植え付けはまた先延ばし。

彫刻の胸に砥石を当てながら、ガハクが今朝話していたことを思い出していた。
「肺活量が増えて来た気がする。深く吸い込んでもまだ余裕がある感じがするので、もっと吸い込んでみると、肺がぐっとせり上がって頼もしいんだよ」そうか、胸が強かったから生き返ったんだなあ。

この4月は、「今までで一番楽しい季節になるよ」とガハクが言う。(K)


2020年3月30日月曜日

蘇る生命力

若い生徒さんのキャンバス2枚をそれぞれ紙に包み、プチプチ梱包材に包んで、段ボールで巻いてゆうパックで送った。明日の夕刻に届くように時間指定をした。長い間習ってくれたけれど、もうお終いにした。ガハクが本当の仕事を始めるために必要な手続きをやり遂げた途端、元気が漲って来た。こういうものだとは知らなかった。言葉では分かっていたのだが、実際に行動に移してみたら、見る見る自分でも驚くくらいに元気になって行く。不明瞭なものをえぐり出し見つめその姿を明るみに出す。そして遠ざかる。それだけのことが長い間出来なかったのだ。

人はその目的によって知られる。用で人は動かされる。本当の仕事に向かって進まねばならない。

今日はアトリエに着いたら筋トレをして、リンゴを齧りながら煙突掃除から始めた。ストーブに開いた穴をブリキ板とアルミホイルで補修。屋根に上って、煙突の先端に付けた風よけ(隣の家のガレージを汚さないように工夫しているんだ)も新しいのに付け替えた。ブリキ板を切って曲げて煙突に沿って結びつける作業も上手に出来た。強風が吹くとパタパタ音がするのは、傘釘が浮いたり抜けたりしていたせいだと分かった。打ち直しておいた。屋根の上は広くて眺めが良かった。畑をぐるっと囲んでいる猪よけの柵が頼もしかった。今年こそ、猪にも猿にも勝てるだろう。(K)


2020年3月29日日曜日

季節外れの雪

アトリエの土間のあちこちに小さな穴が出来ていた。トタン屋根の釘穴から染み込んで来る雨漏りだった。雪混じりの雨のせいだ。泥跳ねしないように雑巾を置いて回った。

気温4度。ストーブを燃し始めたら煙が逆流。ダンパーや煙突の隙間に粘土を詰め込んで対処したが、なかなか完全には塞げない。ついこの間掃除したばかりなのに、変だなあと思いつつ、このストーブもあちこち錆び付いて穴も開いているし、あゝすべてが古くなって朽ち果てて行く、、、などと嘆きに捕まりそうになるのをぐっとこらえて、石を彫った。

部屋の中に煙が篭って来たら、ドアを開けて外の空気を入れる。石を磨いていると、だんだん気持ちが落ち着いてくる。雨だと畑仕事もできないから気晴らしも出来ず、こういう時は彫刻だけが救いなのだ。

夜になってふと思いついた。煙突の先端にも雪が積もっていたのではないか? 煙の逆流はきっとそのせいだ。明日煙突掃除をして、アルミ箔で穴を塞いでやれば、また快適に燃えるだろう。一つ一つ工夫をして解決して来た。これからもそうやって知恵を付けて行く。それが勇気と呼ばれたり、愉快という名が付けられたりする生活だ。(K)


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