2021年2月19日金曜日

テクニックあるじゃん

わあ 彫刻的になったねえと、感心しながら眺めていると、
「僕テクニックがあるんだよ」と、笑う。ガハクは下手だと思われている節があるから、私は不満なのだけど、本人は気にしていない。上手に描くことなんか屁とも思っていないからどうでもいいらしい。デッサンするとさすがだ、私なんかとは筆致が違う。長いこと訓練も模写も練習もして来たのに、それら全てを忘れて子供の頃の自分を取り戻すところまでガハクは戻って来た。子供の頃に戻っても何にも無かったら絶望するだろうけれど、ガハクは絵を描くのが大好きだったから、そこに再び泉を見つけて喜んでいる。

競走に勝ち残った人々は大抵が卑しい。代議士なんかやりながら詩を書いたり、絵を描いたり出来るだろうか?そういう場所のスフィアは臭いが悪い。意識の環境を理解すればするほど、わざわざそんな所に近づいたりしないものだ。政治を語る人に囲まれていると、元気が出ない。作るにも、壊すにも、意欲の在処が悦びにもなり、苦しみにも変じる。そこまでは解ったんだ♪(K)


 

2021年2月18日木曜日

昼間の三日月

 草の上で筋トレをした。青い空を眺めながらクランチを始めたら、太陽が眩しくてとても目を開けていられない。手をかざしながら続行。腕立て伏せも、軽いジャンプも、土の柔らかさが感じられた。小さな雲の横に薄く細く白い月が浮かんでいる。昼間の月を見上げながら体操なんて、子供の頃以来かしら?人は人を好きになり、人は人を恐れる。だけどガハクは、あんなに意地悪だったあの人たちにさえ愛おしさを覚えるという。「悪だから嫌うのでなければ、それは差別でしょう」ガハクの新しい認識だ。

今日は屋根のトタン板をぜんぶ剥がした。外灯も外した。明日から骨組みの解体に取り掛かる。

小さな雲は、トワンだ♪(K)



2021年2月17日水曜日

彼女がやっと笑った

トワンの彼女が、やっと笑った。ここが気に入ってくれたようだ。

目をくっきりさせた。上瞼の裏側をもっと彫り込んでやろう。きっと魅力的になるぞ。どう彫っても良くなるしかない。どん底を知ってしまったら、あとは好きにやるしかないんだ。

去年の今頃は毎晩一人で過ごしていたけれど、ガハクが日に日に回復するのを楽しみにして気を張って過ごしていた。病院というところはベッドごと引っ越す。回復して来ると、中央部からだんだん遠くの部屋に移って行くんだ。

ガハクが退院した3月には、私のアトリエも解体出来るだろう。ガハクはすっかり生まれ変わった。私もその後を追う。(K)



2021年2月16日火曜日

高級になったでしょ

 夜、画室のドアを開けたら、ちょうど手のまわりの水を描いているところだった。ぐいぐい底に吸い込まれるように泳いでいる。人の体は浮くものなのだから、沈むのには二乗倍の推進力が要るだろう。

今日の解体現場で、重いドアをいっしょに持ち上げた途端、「あ、背中にビビッと来た」とガハクが言うので、ちょっと焦ったが、何事もなくやり終えることが出来た。休憩を入れることにして、りんごの香りを嗅ぎながらゆっくり食べた。

丈夫な体を持ち、スピード感のある絵を描き、顔をまっすぐに行きたい方へ向かせ、好きなように生きることが出来れば、光はまわりに付いて来る。

「高級になったでしょ!」とガハクは絵筆を止めて言った。そして、「トレーニングやってなければ絶対ギックリ腰になってるね」と確信を持って言う。(K)





2021年2月15日月曜日

彫刻のアトリエ

 夕飯を食べ終わってすぐに 庭の工房に入ってトワンを彫った。解体作業に追われて、もう1週間以上彫刻をしていない。このまま放っておくと(心か頭か分からないが)無自覚なまま空虚になって行く気がして、今夜から石を彫ることにしたのだ。

アトリエが住まいと一体になっているのが理想。思い立った時に いじったり眺めたり触ったりできる。彫刻というのは、音も出るし、場所も要るし、周りの理解が大事なんだ。

前にも少しだけここで仕事をしたことがある。でも、あっちとこっちの2箇所で石を彫るのは、体力的に難しくて集中出来なかった。今は、もうここしかない。だからやるしかない。

さて、どんな音がするだろう?周りの家にうるさくないだろうか?

最初の一打で分かった。コチッと引き締まった音がした。吹き抜けの空間に吸い込まれて行く。いいノミの音だった。これなら大丈夫だ。ここが私の新しいアトリエだ。(K)



2021年2月14日日曜日

絵でしか出来ないこと

 「やっと絵らしいことが出来るようになった」と言う。山に起こる現象が画家の中に入って、一体どのくらいの月日が経てば絵の中に現れるのだろうか?

ガハクが初めて山登りをしたのは高校生の頃だ。南アルプスの前衛の山に一人で出かけて、下山途中で道に迷ってしまった。仕方なく一晩山中でビバーク。家の人はさぞ心配しただろうと思ったが、ガハクの父は「明日になれば帰って来るだろう」と、慌てずに待っていたらしい。

冒険は出かける人と、帰りを待つ人のチームワークで成り立っている。そうでなきゃ、ただの放浪だ。報告を待っている人がいるということが彼に勇気を与えている。愛されたことのない人が挫けやすいのは、そういうことだ。死んでもいいと思って出かけるのは、冒険とは違う。見て来たことを話してくれなきゃ♪(K)



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