夜、画室のドアを開けたら、ちょうど手のまわりの水を描いているところだった。ぐいぐい底に吸い込まれるように泳いでいる。人の体は浮くものなのだから、沈むのには二乗倍の推進力が要るだろう。
今日の解体現場で、重いドアをいっしょに持ち上げた途端、「あ、背中にビビッと来た」とガハクが言うので、ちょっと焦ったが、何事もなくやり終えることが出来た。休憩を入れることにして、りんごの香りを嗅ぎながらゆっくり食べた。
丈夫な体を持ち、スピード感のある絵を描き、顔をまっすぐに行きたい方へ向かせ、好きなように生きることが出来れば、光はまわりに付いて来る。
「高級になったでしょ!」とガハクは絵筆を止めて言った。そして、「トレーニングやってなければ絶対ギックリ腰になってるね」と確信を持って言う。(K)