2021年3月1日月曜日

庭のメジロ

 小林檎の木にメジロがとまった。この羽の色を見るとウグイスを連想していたけれど、もうそんな勘違いはしなくなった。この鳥は、ホーホケキョとは鳴かないし、もうしばらくしたらこの庭にも本物のウグイスが来る。ウグイスは、滅多にその姿を見せてくれない。地味な色をしていて、小さくて、用心深い鳥だ。

庭の向こうに採石工場のある山が見える。朝、昼、夕の3回サイレンが鳴る。寝坊しても、8時になったら起こしてもらえるうちの目覚まし時計だ。山からコンベアの音が響いて来ると辺りが活気立つ。採石の音も、もう煩いとは思わなくなった。

トワン、もう少ししたら帰ってくるからね、この庭に。(K)



小鳥のような花

 花が鳥のように手のひらにとまった。小鳥に向けられる目は、言葉のないシンプルな通信。

今朝ガハクは、ジョウビタキに語りかけた。茂みの中からじっと見ているのが分かったから、「おいで!おいで!一緒に行こう」と呼びかけながら走ったら、しばらく飛びながら着いて来たそうだ。まるで山道で偶然出会った人懐っこい犬みたいじゃないか。

緑の森の乙女の左手に、赤い小鳥か、赤い花か、どっちにも見える生命体が天から降りて来た。それをふっと受け止めた瞬間を見せてもらった。夜中のこんな時間に森の精霊に会えるなんて、なんと素敵なことだろう。(K)



2021年2月27日土曜日

土地を元に戻す

アトリエの解体がほぼ終わって、今日から土木作業に入った。地主さんには、出来るだけ元の状態に戻してくれと言われているから、ここは頑張るしかない。まずは、コンクリートで作った定盤の掘り出しから開始!

これは、35年前に依頼されて作った大理石のオブジェを仮設置する為に作ったものだ。中央に長さ50㎝のステンレスパイプが入っている。どこに針金を入れたっけ?もうすっかり忘れてしまった。周りからじわじわ探索。

縁に10番線がグルリと回してあるだけだった。いやあ、助かった。2時間ほどで粉砕終了。

ここら辺はどこも斜面だ。アトリエ内を平らにするのも大変だったけれど、フォークリフトが入れるように導入路をガッチリ固めるのには苦労した。ちょっと掘ると、ガハクが敷き詰めてくれた大きな石が次々と出てくる。トイレのタンクを引き上げた後、大きな穴を塞ぐのに石クズを埋めてもいいと言う許可はもらってある。入り切らない分は、フレコンバックに詰めて廃材処理業者に頼むつもりだ。

二人で作ったものだから、二人で壊すことだって出来るはず♪千里の道もようやく真ん中辺りまで来た。(K)



2021年2月26日金曜日

囀りの塊

ガハクが「囀りの塊」と呼んでいるのは、こういう状態のことだったのか。スカスカの小枝の間に小鳥の姿は丸見えだ。てんでに勝手に話しているはずだけれど、全体としては美しい。

「あれは合唱なんだね」とガハクは言う。突然皆がピタッと鳴き止むのは、子供が唐突に「パパ!なぜなの?」と聞いたからなんだそうな。子供の目、天使の声、無垢なものには皆が耳を傾けるというのが、小鳥の世界の掟なんだ。

しばしの静寂と沈黙の後、また一斉に囀り出すシジュウカラの群れ♪(K)


 



2021年2月25日木曜日

綺麗な水

 こんな綺麗な水が描けるんだったら、何も話す必要はないな。

タルコフスキーの映画『アンドレ・リュブロフ』の無言の業。ただ口を閉ざしただけじゃない。絵筆を取ることも止めたんだ。絶望した少年を励まそうと思わず近寄り抱きかかえ、禁を解かれたように初めて口を開いて出て来た言葉が、「君は鐘を作れ!僕は絵を描く。一緒にやろう」というのだった。ドッと堰を切ったように泣いてしまった。こんな荒涼たる世界に何があるって?こういうことしかないじゃない!

画室を覗いたら、女の子の着物の色が塗り替えられていた。夕暮れの暗さの中で白く輝いて見える。赤い着物の少女はどこかへ消えた。絵の言葉は、綺麗な水から出てくる。(K)



2021年2月24日水曜日

チェーンソー登場

チェーンソーを初めて解体作業に使った。建てた時とは逆の順序で積み木を崩すように取り外していけばいいのだけれど、電気をまだ使いたいから壊せない場所があるのだ。で、このようにぶった切っている。

ちょうど太陽に照らされている辺りにフォークリフトの爪をかけ、グィーンと引き上げては後ろに退がり、爪を引き下ろす。それを3回くらい繰り返して地面に梁を寝かせることが出来た。大仕事は無事に終わった。

今日はあちこちに電話をした。廃材処理業者、東電、清掃センターだ。ケイタイにも電話がかかって来た。出来ないことは人に相談する。自分たちで出来ることは労を厭わずやる。ひとつひとつ解決して行く。

夕暮れに二人でドアのベニヤ板をカッターナイフで切った。紐で束ねて、燃えるゴミの日に出す。明日はいよいよスレート屋根の解体だ。防塵マスクを嵌めて作業して、その後シートで包んでおくことにしよう。(K)



2021年2月23日火曜日

魚人の髪

 どんどん変わって行く人を見ている。スピードが上がっている。このペースで行くと、あと1週間もしたらこの魚人は海溝に到達するんじゃないかな。そしてアトリエの解体も終わるだろう。そしたら、いよいよ青空の下で土木作業や運搬仕事に励むことになる。

二人とも顔が日に焼けて来た。一年前の今頃は、ガハクは白くて細くてまだ水だって飲めなかったんだ。連休明けの2月24日に医師の指導の元で「飲んでみてください!」と言われて、恐る恐るコップの水を口に含んで飲み込んだ。管を外して、初めての食事が始まった。

「立つということがこんなに苦しいことだとは知らなかった」と、退院したばかりのマーエダさんがツイートしていた。それを読んだガハクが、「あれは一番苦しかった」とリハビリの初日のことをまざまざと思い返して話してくれた。病床から立ち上がるまでの道のりの厳しさを身を持って体験した者同士、住んでいる世界は違うけれど、実感を持って共感し、同情し、寂しがっている。

だから、今日も勇んで解体作業に向かったんだ。「早くやりたくて仕方がなかったよ。買い出しから帰って来るのが待ち遠しかった」というガハクは、去年カビだらけになった座敷の絨毯をめくって、掃除機をかけてくれた。おかげで今夜は爽やかだ。(K)



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