ガハクは高校生の頃、一人で南アルプスの末端の尾根を登ったことがある。正月の寒い時期だけれど、静岡側から取り付く尾根には雪は無かった。ところが途中で道に迷って、深い谷に降りてしまった。
「山で迷ったら、高い所へ上がれというのは本当だね。早く里に降りようとして谷に入って、川伝いに下って行くと、必ず滝があるんだ。絶壁だからどうしようもない。また登り返して遠巻きして下っても、再び滝が出て来る」もう暗くなったから尾根でビバークしたそうだ。寝袋に入って頭だけ出して、、、
すると、夜中に山の向こうがパーッと明るくなった。光が少し弱くなって、またパーッと空が照らされるのをじっと見ていたそうな。まるで車のヘッドライトがカーブを曲がる度に辺りが照射されるような風だった。でも、山の上にはハイウェイも道路もない、そこは高山だから。
次の朝、尾根を高い方へ向かって歩き出した。やがて元の道に戻れたので、無事下山。
家族はさぞ心配しただろうが、父親がガハクのことを信頼していて、騒がず、まあその通りになった訳だ。
白い人といい、UFOの照射といい、見てしまう人はいる。運命とはそのようなもので、真実を知ってしまった人、遭遇した人は引き受けるしかない。森の中を流れる水も 梅雨明けと共に透き通って来た。ゴム長の周りをさらさらと洗ってゆく。(K)
よく見られている記事
-
久しぶりにガハクが書いている。 新しい年。2022年の今日はもう3日の月曜日。 2020年の冬に僕が重症肺炎で入院してから二人で交代で書いていたものをKだけが記述していた。 去年の30日の午後、いつも二人で行く裏山の頂点に立った時、彼女がうづくまり動けなくなった。僕一人ではとう...
-
ガハクが72日ぶりに筆を取った。どの絵から始めるのだろうと見に行ったら、倒れる直前まで描いていた『Mの家族』だった。しかも踏み台に乗って高いところを描いていた。 また絵が描ける日が来るなんて、しかも今日は日曜日だ、朝の明るい光線の中で描いている 、、、ジーンとする想いに浸...
-
手の指のひとつひとつを磨いては彫り直し、彫り直してはまた磨いて、少しずつ温かな手にしようとしている。この手がうまく彫れたら、顔も同じように優しい形を与えられそうな気がして来た。 今日ガハクは、担当医とその上の大先生と専門医との3人に面談したそうだ。右肺に開いた穴は、ステロイ...
-
今日の午後久しぶりに絵を描いた。 何かをそこに発見して修正したり付け加えたりするという作業。どの絵をその時描くか、直感に従って絵を選ぶ。正面に置いた絵を描きながら、ふと横にある作品に手を加えることもある。 それがボクのいつもの描き方なのだが、今日は闇雲にどうにでもなれとばかり手...
-
スコットのダンスを見ていたら右腕にポツンと水滴が落ちた。あゝこれはよく何もないのにチクっとしたりする例の神経の突発的反射作用だろうと思いながらも当たった所を見た。実際に濡れて光っていた。左手の指で触わると確かに液体の感触が。雨漏り?思わず天井を見上げた。 白い人を見てからもう...