ずいぶん前にやろうとしてやれなかったことを 今この絵の中でやるのだそうな。大きな顔が、デーンと真ん中に据えられている。絵の中から、こちらを見ている。画面の中に収まって大人しくしているつもりはない様子だ。目を見れば分かる。臆することなく物言わぬその口元には、笑みさえ浮かんでいるじゃないか。
こういう試みを、以前ガハクは木版画でやろうとしたんだ。その時思わず私が、「ソビエトのプロレタリアアートみたい」と言ったのだった。労働者のような明るい大きな顔がくっきり二つ並んでいて、しかも木版画の単色刷りだったし、まるで啓蒙ポスターのようだった。そんな私の言葉がグサッと刺さったのか、面白いと思ったのか、どっちとも取れる苦笑いをしたガハクは、続きをやらずに終わりにしたのを思い出す。
今夜は、あの時のリベンジなのだそうな。強い意思がなければ、決して行き着かないところに踏み出す準備が出来たということだ。その証拠に、今日は2度もガハクは山に出かけた。朝は歩いて、夕方はMTBに跨って。すごい体力だ。ハアハアしても、死にはしないことは知っている。死ぬっていうのは、全然違う。生きるってことの反対にあるものでもない。変わろうとしなけりゃ止まってしまうものなんだ。(K)