これを見てガハクが言う。「好きなように彫ってるねえ。これは相当良くなるぞ。もっと何年もかかるかもしれないけど『思うがままに行くが良い』」ロシアの詩人の言葉を添えて二階に上がって行った。ガハクは夜も絵を描くようになった。体力が戻ったと同時に、気力も満ちて来たようだ。
思うがままに行くが良い 信じるままに
情熱などあざ笑え
彼らの言う『情熱』は心の活力でしかない
魂と外界の衝突でしかない
大切なのは自分を信じること
子供のように無力になること
無力こそ偉大なのだ
力に価値はない
人は無力かつ無防備に生まれ
死ぬ時は乾いて固まる
木もそうだ
しなやかに育ち
乾いて硬直して枯れてゆく
硬直と力は隣り合わせだ
柔軟さと無力は生命の源
硬直したものに勝利はない
(タルコフスキーが大好きだった19世紀ロシアの象徴派詩人フョードル・チュッチェフの作。映画『ストーカー』の中にも使われている)
翼を大きくした。尾羽を後ろにそらせた。やわらかな袖にしている。手と胸をもっとやわらかくしたい。(K)
よく見られている記事
-
久しぶりにガハクが書いている。 新しい年。2022年の今日はもう3日の月曜日。 2020年の冬に僕が重症肺炎で入院してから二人で交代で書いていたものをKだけが記述していた。 去年の30日の午後、いつも二人で行く裏山の頂点に立った時、彼女がうづくまり動けなくなった。僕一人ではとう...
-
ガハクが72日ぶりに筆を取った。どの絵から始めるのだろうと見に行ったら、倒れる直前まで描いていた『Mの家族』だった。しかも踏み台に乗って高いところを描いていた。 また絵が描ける日が来るなんて、しかも今日は日曜日だ、朝の明るい光線の中で描いている 、、、ジーンとする想いに浸...
-
手の指のひとつひとつを磨いては彫り直し、彫り直してはまた磨いて、少しずつ温かな手にしようとしている。この手がうまく彫れたら、顔も同じように優しい形を与えられそうな気がして来た。 今日ガハクは、担当医とその上の大先生と専門医との3人に面談したそうだ。右肺に開いた穴は、ステロイ...
-
今日の午後久しぶりに絵を描いた。 何かをそこに発見して修正したり付け加えたりするという作業。どの絵をその時描くか、直感に従って絵を選ぶ。正面に置いた絵を描きながら、ふと横にある作品に手を加えることもある。 それがボクのいつもの描き方なのだが、今日は闇雲にどうにでもなれとばかり手...
-
スコットのダンスを見ていたら右腕にポツンと水滴が落ちた。あゝこれはよく何もないのにチクっとしたりする例の神経の突発的反射作用だろうと思いながらも当たった所を見た。実際に濡れて光っていた。左手の指で触わると確かに液体の感触が。雨漏り?思わず天井を見上げた。 白い人を見てからもう...