『月夜の方舟』を白く描いたガハクが、この『Mの家族』の方舟は赤く塗ったのは何故か?
本人に聞いてみたら、「鉄みたいな感じにしたかったんだ。他の色との関係で。空の色とかさ」というのが今の雰囲気らしい。唐突なものが小さく目立たずいつまでもそこにあるというのは素敵じゃないか。
そこから皆が生まれて来たのに、その存在について何とも思わないのが自由への道。親離れの始まり。故郷からの出奔。だが、忘れてしまっては自分が今ここにいる必然が全く失われてしまう。そのくせ出自と純粋の両方を欲しがる。手に入れたものがコピーであることも忘れて自分の無垢を言い立てる。だったら最初にいた場所に戻るか、ずっとそこにいれば良かったんだ。自由なんか望まずに。
赤い方舟は、『峠の地蔵堂』に繋がる。中世のヨーロッパの医者が残した書物に、霊視された2つの道について書き留められているそうだ。それを読んだユングが、自分が見た夢とあまりにもそっくりだったので驚いたと。私はそう書いているユングの本の方を読んだのだけれど。
(二つの道が分岐して、川を挟んで再び合うことのない道を人々は歩いていく。川の向こう側は工場のような箱状の建造物がひしめき合っている。こちら側は森を抜ける小道が続いている。その先には小さな赤い建物が見えたそうだ。)
今日も霧雨。サヤエンドウが今まで見たこともないくらい大きくなった。やっとアトリエの畑が肥沃になったということだ。猪ブルドーザーが去年の夏から秋にかけて散々掘り返してくれたおかげだ。これも「悪いことさえも善いことに撓められる」現象の一つか。(K)
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