「情報の取り方を間違えると怪物に呑み込まれるんだよ」と夕飯の土佐寿司を食べながら、ガハクが言うのを聞いていた。彼の言う怪物とは、ICUで肺に酸素を送り込まれて身動きできない混濁した意識の中で見た者達のことだ。恐怖が人を惹き付けるのだそうだ。
マリーアントワネットが、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言ったという逸話について、ガハクが思いもよらぬ解説をしてくれた。すぐには解らなかったが、めげずに議論しているうちにふと、昔読んだシモーヌ・ヴェイユの唯一の戯曲『救われたベネチア』の中に出て来る貴族の娘のことが思い浮かんだ。ただの世間知らずの情報の欠如が作り出す美への憧憬とばかり思っていたが、そんな単純なものではなかった。
「災いだ!禍だ!」という叫び声が響いてくる。だけれど、美味しいものを食べていると冷静でいられる。(K)
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