パン型は洗っちゃダメだと知ったのは、だいぶ後になってからだ。拭くだけでいいのだ。黒い点々がパンの表面に付いてしまうのは、錆び付きのせいなんだ。もう絶対洗わないようにしてからは、スルッと抜けるようになった。気持ちがいい。
体重が46キロまで戻ったガハクは、今朝も家の中の片付けをしていた。 ICUで32kgまで痩せ細った体がだんだん太くなって行くのを見るのは、感動的だ。今日はとうとう腿の後ろに筋肉痛が出て、お尻の肉も付き始めた。腰まで来るのはもう一息だ。病院で教えてもらったリハビリ体操のメニューを毎日必ずやっている。他にも階段を上ったり下りたり。ゆっくりだが(這わずに)歩いている。その姿が美しい。
キッチンのあちこちの棚の奥に放り込まれたままになっている物をぜんぶ引っ張り出して、要る物と、要らない物とに分類した。ガハクが「基本的にふたりで暮らすために必要なものだけにしよう」と宣言したので、一々決断して行く。ほとんどの物が即決できた。要らない物ばかりだった。
「こうやって行けばきっと変わるよ。大事なものが見えてくるよ」とガハクが言う。退院して2週間経った。明日は病院へドライブだ。ステロイドがまた減らされて毎日2錠になる。新しい器を用意しなければ、新しい意識は入れてもらえないのだ。(K)
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