ガハクの奇跡の生還は、このリンゴの木のイメージに重なる。
リンゴの木が私たちといっしょにこの庭に引っ越したのは17年前だ。時期が悪かったのか、土地が合わなかったのか、根っこを切り過ぎたのか、だんだん弱って来て根元からグラグラと揺れて今にも倒れそうになった。コブがあちこちに出来て、まるで癌にでもかかったような醜い姿になったのを見かねて、木彫のノミと小槌でコンコンと削ってボンドで傷を塞いだりもした。百科事典やネットで調べたら、リンゴ木には病気や虫が付き易いのだと知って、葉や枝に薬を散布したりもした。試行錯誤と観察を繰り返してついに、根元の樹皮を食い破る虫の害がいちばんの敵だと悟った。
季節の変わり目ごとに地面を掘ると、必ずウォーム(カブトムシやクワガタムシの類)がいる。手で潰して、齧られた所にボンドを塗り、和紙か枯葉で塞いでおくと、自然に復活してくれる。
初めて花がついた時は嬉しかった。実が成るまでにはそれから数年かかった。みんなで食べた。特別の香りと味がした。
ふた冬前にトワンが死んで、この庭に猿がやって来るようになった。新たなリンゴの敵の出現に右往左往した。猿は木を枯らさないけれど、私たちの食い扶持を盗み取って行くのだもの、頭に来た。でも猿との戦いにかまけていて、すっかり大事なことを忘れていた。
春の長閑な日曜日の午後、じっくり腰を据えて樹皮の修復に取り掛かった。薄皮の下に緑色が見えたから大丈夫だ。また薄ピンクの可愛い花を咲かせてくれるだろう。(K)
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