2021年4月6日火曜日

大理石で彫った『山』

最初に大理石で彫ったのが、山だった。アトリエの正面に聳え立つ山を毎日スケッチした。木炭デッサンもした。水彩絵具で色も付けた。坐骨神経痛で足が萎えて動けなくなった30代前半の頃だ。石は彫れなくても、絵なら椅子に座って描けたんだ。だんだん回復して来た時、それまでの御影石に比べて体力的に楽そうに思えた大理石でその『山』を彫り始めた。それが私の大理石彫刻の始まり。

トンネルだって彫ってある。山の斜面を横切る線路は、独りで過ごす寂しさを紛らわしてくれた。ときどき孫を連れてやって来る近所のお爺さんは、子供と一緒に電車に向かって手を振っていた。通り過ぎる車内の人たちが手を振り返すこともある。ほんの30年前は、皆電車を見ると手を振ったんだ。今はもう、誰も、そんなことはしない。

床に一つだけ残った彫刻は『広い道、狭い道』だ。また続きを彫ろう。(K)



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