タルコフスキーの『 アンドレ・ルブリョフ』の最後の方をガハクはまた観たという。ルブリョフが描いたイコン壁画を丁寧に映し出しているシーンがしばらく続く。3時間3分の映画の中で、そこだけがカラーなんだ。
「なんでだろうね?」と切り出したガハクは、昔の絵の方が今よりずっと魅力的な理由を知りたがっている。「あの鐘だって、ほんとに秘伝なんてあったのだろうか?」と、続けて言う。何も教わらなかったはずの次男坊の若者が遂に梵鐘の鋳造に成功しやり遂げたことを思うと、彼がずっと親父や兄貴の仕事の手伝いをしながら覚えたことだけがあったのであって、「元々秘伝なんか無かったんじゃないか」とガハクは言い出した。
やりながら思い付くこと、発見の連続がそこにはあった。それを支えるのは、追い込まれた者の両肩にずっしりとのしかかる重みに耐えて前進するシンプルな熱意だ。死んだものを生き返らせるのは個人のインスピレーションで、熱意に降りた新しい発見とその理解なのだという結論に達した。
水が青く広がって行く。歌い手の衣が風に揺れ始めた。マリオネットを操る男の顔が魅力的だ。人が動き出した。(K)