ガハクの病気は治って来たけれど、今度はどうやって力を出すのかが問題になって来た。すっかり痩せ細った体はちょっと動くだけで辛そうだ。飲んだり食べたり出来ればエネルギーも蓄えられるのだろうが、まだ喉に通らない。点滴の管はだんだん少なくなっている。酸素も要らないほど呼吸が楽になるには、もう少し時間がかかるようだ。昨日より元気がなくなっている気がすると、気持ちが塞いでがっかりした顔をする。今日もそうだった。肩を揉んでいるうちに目がぱっちりと開いて来る。意欲というのは内と外と同時に湧き上がるものが必要なんじゃないかなあ。「なんか喋ってよ」と自分より私に話させようとするのは、聞いている方が楽だからだろう。もっと話をしないとと思うけれど、30分の面会時間じゃ意識が奮い立つには短過ぎる。今日は帰りの山間をハンドルをきゅーっと回して、もう一度面会に行こうかと思ったくらい寂しかった。側にいればもっと明るい時間が過ごせるだろうに。でも焦らないで行こう。
公会堂のお掃除の日だったのだけど、病院に早く行きたいので 、皆が集合する前にいつも私がやっているところだけ綺麗にして、メモをドアに貼り付けておいた。「窓ガラスの掃除はやりました。用事があるのでお先に失礼しますK」と。
もうとっくに解散しているだろうと、公会堂の横を過ぎて家に向かう坂にハンドルを切った時、声がかかった。「まあKさん!どうしたの?みんな心配しているよ。まだお茶を飲んでいるから話しに行ってあげて」ほとんどの人が私より年上の老婆だけれど、一斉に固唾を飲んで、ガハクが運び込まれた時の顛末に耳を傾けている。そして話終わると一斉に「よかったよかった」の合唱になった。話をする。正直に話す。思ったことをあったことを言葉にするってこんなに元気になるものなんだなあと、ボイスの言葉を改めて認識した。
「君の傷みをさらけ出せ。そうしたら元気になれる」ヨゼフ・ボイス (K)
よく見られている記事
-
久しぶりにガハクが書いている。 新しい年。2022年の今日はもう3日の月曜日。 2020年の冬に僕が重症肺炎で入院してから二人で交代で書いていたものをKだけが記述していた。 去年の30日の午後、いつも二人で行く裏山の頂点に立った時、彼女がうづくまり動けなくなった。僕一人ではとう...
-
ガハクが72日ぶりに筆を取った。どの絵から始めるのだろうと見に行ったら、倒れる直前まで描いていた『Mの家族』だった。しかも踏み台に乗って高いところを描いていた。 また絵が描ける日が来るなんて、しかも今日は日曜日だ、朝の明るい光線の中で描いている 、、、ジーンとする想いに浸...
-
手の指のひとつひとつを磨いては彫り直し、彫り直してはまた磨いて、少しずつ温かな手にしようとしている。この手がうまく彫れたら、顔も同じように優しい形を与えられそうな気がして来た。 今日ガハクは、担当医とその上の大先生と専門医との3人に面談したそうだ。右肺に開いた穴は、ステロイ...
-
今日の午後久しぶりに絵を描いた。 何かをそこに発見して修正したり付け加えたりするという作業。どの絵をその時描くか、直感に従って絵を選ぶ。正面に置いた絵を描きながら、ふと横にある作品に手を加えることもある。 それがボクのいつもの描き方なのだが、今日は闇雲にどうにでもなれとばかり手...
-
スコットのダンスを見ていたら右腕にポツンと水滴が落ちた。あゝこれはよく何もないのにチクっとしたりする例の神経の突発的反射作用だろうと思いながらも当たった所を見た。実際に濡れて光っていた。左手の指で触わると確かに液体の感触が。雨漏り?思わず天井を見上げた。 白い人を見てからもう...