ICU区画の自動扉は中からしか開かないようになっていて、二度の検問がある。二つ目の扉が開いてすぐがガハクのベッド。今日は上体がぐっと起き上がっていて顔がよく見えた。ぱっと気持ちが晴れた。声も大きかった。
昨夜読んだ浜垣氏のブログ記事について話すと、ガハクがノッて来たのには内心驚いた。頭がはっきりして来たんだ。とても嬉しかった。賢治が上京した頃のことやら、花巻に帰ると高等遊民になり下がったと言われもしたそうだ。そんな時期に書かれた『アメニモマケズ』のことをガハクも注目していて、赤鉛筆で薄く書かれた『行ッテ』という文字も知っていた。胸を病むということは、真理を誤謬が蝕むということだ。賢治もさぞ苦しかったことだろう。
世間のニュースについて聞かれたので、コロナウィルスの話題ばっかりだよと言うと、「チャンバラ隊は政権とった?」と時空をすっ飛ばすところ辺りにまだ夢が混じっている。相変わらず桜追及が続いているし、それどころか、検察トップの人事に官邸が介入しているよと言うと、「国会議員は権力者だから検察は捕まえやしないよ。特に法務大臣とか。たとえ首相を下りても」と、相変わらずガハクはクールだ。
「でも僕にはそんなニュースより生コンクリートを飲み込んだ人のことがずっと気持ち悪い」と言う。何のことかと思ったら、昨日途切れ途切れに聞かされた話の続きだった。「夢じゃないと思うよ。みんな大騒ぎだったから」という。ガハクがつい先日まで入っていた一番奥の部屋でその人は亡くなったそうだ。それは事件なの、自殺なのと聞いたら、自分でやったらしいとのこと。自分を痛めつけるとしてもやり方が惨すぎる。どういう悪霊が付いたのだろうか。
そんな話をしながら、ガハクの肩をずっと揉んでいた。ずいぶん楽になったそうだ。生きている人に触れている喜びで全く疲れなかった。帰り際、さっと上がった手が軽くて明るかった。(K)
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