ガハクが生還して75日ぶりにキャンバスの前に立って絵筆を動かしたのが、ちょうど一年前。その時に最初に取り掛かったのは、後ろにある150号のキャンバスだ。
よくもまあ病後のひ弱な体で、踏み台に乗るのもやっとの体力で(実際に一度は段を踏み外して転んでもいる)大きな絵から始めたねえと言うと、
「大きな絵に頼ったんだね」と、意外な言葉が返って来た。
大きな絵だと、思いつくままどこか一部分を描いていても、やがてそれが繋がってだんだん出来上がって行く。それが小さな絵になると、集中力が要るという。意識を研ぎ澄ますには、あの時はまだエネルギーが足りなかったんだそうだ。コツコツ、とぼとぼ、ジリジリと進む時もあれば、カーッと燃えるように駆け抜ける時もある。
今夜は小さな絵を描いていた。この赤い木は何を表象しているのだろう?(K)