ガハクが撮って来たこの写真、長閑に浮かんでいる白い雲を狙ったそうだけど、雲の方が森の穴からこっちを覗いているようにしか見えないなあ。変な頭だもん。
ガハクが少年の頃、まだ幼かった甥っ子たちとかくれんぼして遊んでやった時のことだ。先に見つけたと言うガハクに対して、「お兄ちゃんから見えてたのなら、僕からだって見えていたはずだ」と抗議して来た。「頭のいい子だなあと感心したよ」と話してくれた。彼は成人してロッカーをやって、漫画のストーリーを書いたりして、休みは釣り船に乗って海の魚を獲るのが趣味と聞いている。今はどうしているか知らない。
見ている者は同時に見られてもいるのだと、イタロ・カルビーノが書いていた。あれは、小説の主人公がステージの上で役者として演じている時の意識についてだったな。客席の人々の目も持つと言うそれって、自意識とどこが違うのだろう?
こっちから見えなくても誰かに見られているという気持ちが、山の中ではときどき起こる。
夕方自転車を押しながら山道を登っていたら、突然近くでぴゅーっと鋭い声が上がった。すぐに私も強そうな声で、グァッと叫び返した。たぶん、いつもの鹿だ。(K)