「 彫っただけでまだ一度も刷っていない」と言う。ずっと、ただ彫り続けていただけなのか。
原板を彫りながら反転した絵をイメージできるようになれば、刷りの意味は変わってくる。インクの濃淡が生み出す空間性を見たくなるまでは、一々試し刷りをする必要はないのだ。刷りの面白さは彫りの先にある。彫りが甘いものを刷りではカバーできない。彫りと刷りでは、それぞれが得意とする領域があるようだ。
大きな目で瞬きもせずじっとこちらを見つめて来るこの人たちは、「あなたは私たちのシュゾクです」と言ったそうだ。確かにガハクの目は大きい。王子は、「おいでください」と言う為だけにやって来た。
明日はガハクと二人で朝から製材所に手伝いに行く。アルバイトだ。ちゃんと日当を払うと社長が言っているから、気合を入れて弁当と朝食のサンドイッチを夜のうちに作っておいた。これで寝坊しても慌てないで済む。
今回のアトリエ解体に乗り込むように助けてくれた恩人だもの。1週間前に石の運び出しをやり終えた後ガハクが、「この御恩は決して忘れません」と言うのを横で感動を持って聞いていた。だから、今朝ケイタイで「明日手伝ってくれるかな?」と言われた時、間髪入れずに、「はい行きます!」と言ったんだ。(K)