2020年12月13日日曜日

膝の赤子

「おゝ 描けたじゃないか!」と思わず口に出して独り喜んだと言っていたのは、これか。

膝の赤ん坊をしげしげと見つめた。母親に抱かれて安心して中空を眺めているこの子のどこがそんなに難しかったのだろうと思いながら…出来てしまえばごく自然なポーズだ。絵の中の出来事の全てがそんな風だ。

母親の手が素敵だな。膝の深さがゆったりしている。草履を履いた白い足袋の位置が美しいじゃないか。この赤ん坊が大きくなるまで、この森はあるだろうか?

その人はぽーっとして、内なる興奮を抑えている夢見るような目を辺りの山々に向けて、駅下の売店のベンチに座ってパンを齧っていた。瓶入りの牛乳をときどき口に含みながら。その様子は、声をかけるのが勿体ないような美しい時間に見えた。でも、さっと車を降りて、「テルオおじちゃん!」と呼び掛けたあの日。

『Mの家族』は、そういう未来まで描き尽くすガハクの試みである。(K)



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