2020年11月7日土曜日

トワンの彼女

アガノ村のどの犬とも仲が良かったし、どの犬にも好かれたけれど、トワンには彼女はいなかった。村のほとんどの犬は虚勢や避妊がなされていたが、トワンは獣医さんのアドバイスにより(大人し過ぎる犬だから男の子らしさが消えないようにと)自然のままだったのだ。それでも、春先にどこからか漂って来るメスの臭いにはどうしても反応してしまう。落ち着きがなくなる。もしどこかの雌犬に孕ませてしまったら申し訳ないから発情期には緊張した。でもメスを追うこともなく、呼べば戻って来た。

トワンにとってガハクはリーダーで、私のことは守るべきものと思っていたようだ。野原の隅っこで用足しをすると、すぐに飛んできて周りを警戒し始める。
夏のぞうけい教室に大勢の子供達がやって来たときは、まるで牧童犬のようだった。山にスケッチの材料を探しに出ると、集団の前に出たり、後ろに回ったりして走り回っていた。

「来年はトワンが来るよ」とガハクが言う。どうやって現れるのか全く分からないそうだ。ただその事実だけの予言だ。

今日は「また絵を描きたい」という人が現れた。嬉しかった。どういう風にやろうか、これからゆっくり考えよう。教室運営のような商売ではなく、芸術が生きる力になるということを自覚した人に教えたいとガハクは言っている。(K)

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