今朝、ガハクが山に散歩に出かけている間に 久しぶりにバイオリンを引っ張り出して弾いた。4本の弦はすっかり緩み、黒檀の顎当てがカビで白くなっていた。マーエダさんが家に来て『アルフォンシーナと海』を優しく小さく変わった不思議な音で弾いてみせてくれた後、「いい楽器ですね。大事にしてください」と言いながら、私の手に戻してくれたあの時から 一度も弾いていなかったのだ。明日がコンサートという前夜に、初めてお会いした。すごく寒そうだった。それにとても疲れた様子だった。車でホテルまで送って別れてから、車の中でも家に帰ってからも心配でガハクとずっと話していてなかなか眠れなかった。でもコンサートは素晴らしかったようで、皆が称賛していた。
ギターに積もっていた埃をきれいに拭いてからガハクに渡したら、弾き始めたのは『禁じられた遊び』だった。肺炎で倒れる2週間前に弾いて以来、ずっと壁に立て掛けられたままになっていたギターが、やっと音を出した。あんなに面白がって毎日弾いていたのに、ずっと弾くこともできずに、そのうち弾こうとも思わなくなってしまっていたのだった。それが今日突然弾く気になったのは何でだろう?朝から晴れたからだろうか?
いや、そうじゃない。昨夜そう心に決めて、ガハクの前で口に出したからだ。
「今日からバイオリンを弾く!」と。声に出すと動き出すんだ。
ガハクは「Kが弾けと言うから弾いたんだよ」と言う。(K)