ガハクは入院中、ほとんど眠れなかったそうだ。「眠らなくても良いんだろうか?」とよく言っていたものだ。そのうち眠剤が処方されたが、それでも「ちっとも効かない」とボヤいていた。だからあまり夢は見なくて、ベッドの周辺で起きた慌ただしい音や聞こえて来る会話から想像される事件やトラブルのことを 面会に行くとよく話してくれたのだった。
退院した後でその一つ一つを検証して分かったことだが、入院中の前半は妄想で、後半の部分は確かに起きた事であることが判明した。ダイナミックでとんでもない話は、混濁した意識の中で見られたり聞かれたものだった。
医師がやって来てガハクと絵の話を始めた。そのうち絵の値段の話になって、あれこれ絵を物色し始めるのを眺めながら「その絵はやめた方がいい。こっちの方がいい絵ですよ」とアドバイスさえしたそうな。救急車に乗った辺りから記憶が怪しいガハクが、ベッド以外はどこも歩き回ることさえ出来なかった広大な国際医療センターの玄関にあるでっかい高さ10メートルほどのキャンバスに描かれたヒポクラテスとナイチンゲールの2枚の絵のことを知る由もない。退院した日も救急車に乗って大学病院に転院したから、見なかった。なのに、絵の値踏みをする医師たちと商談をやったそうな。ちょっとリアル過ぎないか?
30年前に書いた詩を20年前に銅版に刻んで8年前に展覧会に出した。それをまた今刻み直している。意識の活動は時空に縛られない。死とか生とか問題じゃない。自分の意識の行方を引き受けることだ。(K)
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