版画室を覗いたら、ホットプレートの上で温めた銅版にインクを塗っている最中だった。そして、インクを拭き取りながら、
「これがけっこう腕力が要るんだよ。女の人でもやっているけど、よくやれるなあと思うよ」と話す。その間ずっと手だけは激しく動いていた。溝の中にインクを残して、周りがどんどん光って行く。
この拭き取り具合がそのまま紙に移るのだから、ここで話しかけてはいけない、気持ちの集中が途切れないようにと気遣っていたら、
「いやあ大丈夫だよ、慣れてるから話しながらでもできるよ」と笑っていて、何も特別なことはないのだそうな。そこには秘密も神秘もなく、いつものようにただ手が動くだけ。
そういうガハクにとっては、優生思想なんていうのは人類が乗り越えるべき下劣なもので、それはもう分かり切ったことなのだ。(K)
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