2020年3月1日日曜日

受容

「安心して過ごしてね。もう電話はかけないでおこう」と言った通り、今夜はかかって来なかった。今日もレントゲンを撮ったはずだから、『便りのないのは良い便り』ということだ。

今どこの病院も面会禁止だそうだ。ガハクは着実に回復しているからこうやって落ち着いていられるけれど、容態が不安定な患者の家族はさぞかし辛いだろうな。

日曜日の朝はいつも掃除をしていたのを思い出して、ベランダの拭き掃除から始めた。布団を干して、窓ガラスを拭いて、カーテンを洗って、エアコンのフィルターを掃除してと、次々と目につくものから綺麗にして行った。あちこちに何年も放ったらかしだったものがあることに気が付いた。今回のガハクの生還の奇跡をしっかり受けとめる為に今日は1日頑張った。ちょうど春のぽかぽか陽気だったから、家中の窓をぜんぶ開け放って夕方まで風を通した。4月並みの気候だったらしい。

 肺はスポンジのような柔らかな組織で出来ているそうだ。そこに出来たという小さな穴のことを思いながら彫っていたら、指の間の小さな溝にぴたっと平ノミが当たって、神経がしーんと静まり返った。鋭い線は柔らかな面に囲まれた時に現れる。厳しい緊迫した状況を慌てず騒がずじっと見つめていると、すーっとしたエーテル状の霊気に包まれる。そうやって癒され作られる形はほんとうのものだ。これからはそういう嘘のないものだけを作っていこうとガハクと誓い合った。(K)



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