やっと玄関の花を生け替えた。冬にこの庭に咲く花は椿しかないのだけど、椿は咲き切ったら突然ぽろっと落ちるから怖くて生けられなかったんだ。ガハクが本当に大丈夫と分かったので、裏庭から蕾がいっぱい付いている枝を2本折って来て花瓶に刺した。何も気にせずやって来たことも、今回だけは慎重に少しの隙も見せないように辺りを見張って過ごして来たんだ。明るさに怯えは禁物。ゆるみには魔がつけ込む。そんな気合いでここまで来た。
母の美しい一言をずっと守っている。「玄関に花を生けてあるかねえ?玄関に花を生けるように言ってちょうだい」末期癌でもう助かりようもなく見放されてしまっている人の頼み事を実家の嫁さんには言わなかったような気がする。もう忘れてしまった。それどころじゃなかったから。だけどその言葉は実行している。花なら何でもいいんだ。もうすぐライラックが咲く。スモモも綺麗だ。梅がこの庭にはないから、椿なんだいつもこの時期は。
ガハクの退院はいよいよ真実味を増して来た。今日はっきりと先生から日程を言われたそうだ。 早くて週の半ば、もしかしたら週末になるかもしれないと。でももううちに帰って来ることは決まっているから楽しい興奮が続いている。ガハクは昨夜は一睡もしなかったそうだ。そうだろうな、分かるよ。家に帰れるなんて遠い夢のように思っていた苦しい時期が長かったから。
今日はアトリエで石を彫っていても気がそぞろで落ち着かなかった。結局、車を洗ったり、ジャガイモを植え付けたりして過ごした。
高校生になったばかりの正月に中学校の同窓生から年賀状が届いた。集団就職で関西に出た男の子からだった。「あなたは寒椿のような人でした」と一言書いてあったのを今も覚えている。誰かが見ている。見られているということをいつも意識した方がいい。信の始まりはそこにある。(K)
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