初めてぴったり合奏できた後でガハクに「人間が変わったね」と言われた。確かにこういう音は今まで出せなかったし、相手の音も良く聴こえる。音楽は不得意なのだとずっと思って来てガチガチだったんだな。わたしは本当は音痴で、耳が遠くて、人の話を聞かない頑固者で、唯我独尊、一途なところと集中力だけが取り柄だと思って来た。そういう風に自分を客観的に規定しておいた方が安心できた。それでも、願わくば、少しずつでも自分を変えたいと思っていたんだ。
ここまで生きて来てつくづく思うのは、知識と記憶は何の役にも立たず、体験だけが資質となり性質となって意識の内部に刻まれるということだ。その経験を直に受け止め、傷付き、考え、耐え忍んだ分だけ意識の筋肉が太くなる。その活動的な筋肉は新しく入って来た人に生かされるんだ。そういうことが今日我が身に起こった。
襟元を削って衣を薄くしている。翼も薄くした。その方が胸が空になると分かったからだ。(K)
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