アトリエの片付けに追われて、今日も夕暮れの少しの時間しか彫れなかったけれど、トワンの柔らかな胸のうねりが出せた。
机の周りを片付けていたら、犬のデッサンが出て来た。2006年と書いてあるから、どうもトワンのようだけど、ただの犬にしか見えない絵でつまらなかった。トワンという形の中に愛が宿ったのは、もっとずっと後になってからなんだな。いや、トワンが死んでからかもしれない。
トワンを埋めたところにガハクが彫った唯一の石の彫刻が置いてある。デンドロビウムという洋蘭を安山岩で彫ってあって、ボソボソした石の植物なんだ。そのてっぺんにヤシの実のような頭がのぞいていて、つい撫でてしまう。ガハクもそうらしい。昨日は石に向かって、「トワン!ママが帰って来るよ」と言ったそうだ。
37年ぶりにガハクと同じ場所で仕事ができる。その日を楽しみにしながら、アトリエ解体に励んでいる。(K)