今朝、このアトリエのことを「ストイックな空間」とガハクに言われた。久しぶりに聞く言葉だった。学生の頃によく言われていたんだ。石を彫っていても、粘土で裸婦像を作っていても、ストイックだって。今思えば、あれはただの流行りで、語彙の少ない学生同士が相手のことを褒めもせず貶しもしないで評論するときの手法だったのだろう。
でもガハクの使う「ストイック」なら理解できる。人を指すのではなく、場に漂うスフィアのことだ。誰かに見せたり見られたりすることで歪んでしまう自意識が、ここには無い。
背中を彫るために石を回転させようとしたが、やめた。顔も時々眺めながら彫りたいので、投光器で背中を照らすことにした。赤いっぽい300wの電球で、私の背中も暖かくなった。
「石を彫っていることが、時間を作っているのだよ」とガハクが言う。余裕があり暇があり時間があるから石が彫れるのだなんて誰かが思ったとしても、ここには何にも届かない。それほど静かで寂しく護られた場所なんだ。(K)