今夜は涼しい。ガハクは版画室にいて刷りをしていた。
「ほら、ここ!」と指差すところを見ると、光に包まれた字が強く浮かび上がっている。そこを読もうとして顔を近づけると、
「とおめいなまるい球が出て来たよ」と言う。字ではなく球体を捉えようと、目のレンズをぐっと広角に変えた。小さな球体は、生まれたばかりのようにまっさらだ。そこに刻まれた字はくっきりとして美しかった。特に真ん中の一行だけが。
ずっと、背後の渦が主題なのだと思っていたので、意外な展開に驚いた。嵐や光や霧や小さな生命体を放射している大きな渦の真ん中にある穴は、放出されたものを再び飲み込もうとしているようにも見える。
あれが私たちの住む球であるはずがない。つまらないことに拘泥していては、夏が終わると終わってしまう。『囲』という漢字が、白く発光した小さな部屋に見えた。文字が絵になって遊んでいた。(K)
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