「セザンヌはセントビクトアール山に登ったことがあったかなあ?」とガハクが言う。毎日同じ山を描き続けた彼も、その山に登ることはなかったみたいだ。広い庭にはキャンバスがかけられたイーゼルをあちこちに置いたままにしてあって、複数の絵を時間を決めて描いて回っていたらしい。紙と違って、麻布のキャンバスにオイルの絵具であればこそ出来ることだ。
何の変哲もないセントビクトアール山がセザンヌのおかげで有名になって、今や観光スポットになっている。アガノ村のこの山がそんなことにはなりませんように。でも、昨日もガハクは山の中で若い青年二人がカメラ機材を担いでいるのに出会ったそうだ。向こうの方が驚いて、「こんなところで人に会うなんて思っていなかったので驚きました」などと言っていたそうな。誰もが自分のフィールドのように思える山なんだな、トワンの山は。(K)