今日も石を彫っていると、トカゲが足元を横切って行った。時計を見ると2時30分だった。いつもより10分遅いけど、だいたい定刻だ。石を彫っているだけで足を動かさなければ、安心して通り過ぎて行く。何の用事があるのか分からないが、生真面目に日課をこなしているその姿に感心している。人間だけが働いたり買い物に出かけたり人に会ったりする訳じゃないんだなあ。トカゲにはトカゲの考えとか決まりがあるらしいのだ。
動物たちの方だって私のことは知っている。狸が毎晩やって来たこともあった。煮干しをやったら、次の日は彼女(彼氏?)を伴ってやって来た時は嬉しかったなあ。野良猫が遊びに来ることもあった。パンの耳を与えていたら、やがて子猫を従えてやって来るようになった。猪の子は夜の野原を走り回っていた。ハンマーを振る手を止めたら、突然私の存在に気がついたように、ハッと一瞬飛び退いて、彫り始めたら、また平気に走り回っていたっけ。
コツコツ石を彫っていると、鶯がすぐ近くで囀ったりもする。山の斜面からキツツキのドラミングの音が毎日聞こえる。出ている音は『私』というものを消す。(K)
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