今日はとうとう集中治療室から出て、広いフロアの入り口に近いベッドに移動していた。しかも声を出して話をした。胸がまだ苦しいようでとても小さな声だけど、耳を近づけると聞き取れる。「毎日どうしてるの?」というのが最初の質問だった。早起きして、朝のうちは石を彫ってるよと答えた。
死にそうになった人が 生き返った時、どんなものを見て来たのか聞いてみたいと言っていたガハク。僕は死ぬのは怖くないと言っていた人だけど、「もうダメかと思った」そうだ。昨日自分で管を抜いて恭子に会わせてくださいと言ったのは、もしかしたら、別れを言う為だったのかもしれないと思えた。救かる瞬間にダメだと絶望するということはありそうな気がする。だってその機を狙って先生はリハビリを開始したんだもん。ほんとうに危なかったのは、土曜日の夜に、自分で治すと半ば妄想のようにいろんな話をして鼓舞していた時なんだ。
好機を見逃さないのが勝負師。闘い方を間違えば二人とも地獄に落ちるところだった。ぎりぎりで回避できたのはもう強い祈りとしか思えない。
ガハクの頬をもっと削ぎ落とそう。眉毛は太くしよう。瞼はきっちりと強く。もっと彫れることが分かった。毎日見つめているから生きている形に敏感になった。(K)
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