変性せずに泥炭のまま大理石の中に残っている黒い粒からは汚泥の臭いがする。花崗岩を彫っている時に硫黄の臭いがするのも同じこと。石化できずに封じ込められたものは地球が変わって来た太古の名残だ。人の腹の中に潜む黒いもののことを考えた。鬱とはこの黒いものが成せる仕業。外から入って来たばい菌みたいなものじゃないかなと昼間ガハクが話していたのを思い出しながら、この子のお腹の黒い粒を削り取っていたら、だんだん形がしまって良くなって来た。腿の付け根の辺りの黒い縞模様もずんずん削った。黒いものが取り除けるのだったら、少しぐらい形が崩れても構わない。そんな気持ちになったのは、雨がトタン屋根を打ち始めたからだろう。外で焚き火をしていた鬱のジイさんもこの雨じゃ家に入ってしまっただろう。安心して仕事ができた。人の中に闇はある。闇の中に鬼は住む。黒いものが口から出るようになったら重症だ。下から出るんだったら正常だ。(K)
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