展覧会の終わり頃になって喉の奥に髪の毛が一本引っかかっているような違和感を感じた。飲み込もうとしても、吐き出そうとしてもちっとも動かないので、歯ブラシで掻き出そうとしたら血が滲んだので諦めた。ガハクが、「きっと喋り過ぎたんだよ」と慰めてくれた。
ところが次の日には、魚の皮の切れっ端が引っかかっている感じでもっと酷くなった。いよいよ心配になって暗い顔をしていると、すかさずガハクが、「癌かな?」とからかう。
ガサガサと荒れた手のように、喉の奥が肌荒れを起こしたのだろう。そう思うことにしていたら、展覧会の最終日になってスッと消えた。最後の片付けの日に、その理由が分かった。ずっと引っかかっていたことが判明したのだ。自分を偽ることが喉に引っかかっるものを生み出していたのだった。疑いや落胆や失望は、察知した瞬間が勝負だ。跳躍力と動体視力を鍛えておかねば身を滅ぼす。
「私、お金より大事なものがあることに気が付いたんです」と、おっしゃる方がガハクの銅版画を買ってくださった。その人は、その前の晩からずっと興奮して眠れないほどだったという。娘さんと相談してどっちにしようかと散々悩んで、やっと決めたそうだ。
人の心の純真を見せてもらった。このレリーフの人も優しくなった。やっと歌っている口になった。澄んだ声になった。この口から出た歌なら遠くまで届くだろう。いい声が出るまでずっと待っていた甲斐があった。今ようやく明るく澄んだ声が響き渡る。やっとである。(K)
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