メルヴィルの『白鯨』を読み始めたガハクを追いかけるように、私も毎晩読んでいる。クジラの肉を子供の頃はよく食べたし、馬の肉もよく食卓に出て来たけれど、どっちの動物も大きく逞しく美しい。 人間よりずっと素直で優れているかもしれないのに、皆で好きなように扱って来た。小さなものが如何に大きなものや優れたものたちを支配するか、その方法を考え出したのが人間だ。
人間の一番悪いところは嫉妬心だ。自分より優れたものを見たら、惚れ惚れと見上げて愛するのが最初の情動だったはずなのに、いつどこで捻じ曲げてしまったのか?闘争となじり合いばかりに明け暮れている間に終わってしまう寂しい人々のなんと多いことか。
ガハクの馬が突然素敵になっていて驚いていると、「もうどうでもよくなったんだよ。勝手に描くことにしたんだ」と言う。詩人は本なんて出さないんだよ、展覧会なんかしないのが絵描きなんだと言うガハクは、世を捨てて海に出た。(K)