今夜は版画室に上がって行ったガハク。夏の頃に彫っていた銅版の続きをやっていた。でっかいルーペが机の上に置いてある。覗き込むと、「おいでください」と話しかける冥界の王子の顔が浮かび上がった。山の頂きに月が昇っている。この日この夜この景色を見ちゃったら、生き方が変わらざる得ないだろう。そういう体験をして来たガハクは、退院してから今日でちょうど一年になった。
一年前の今日は、雪が降っていた。まず最初に私の彫刻を見たいと言うので、アトリエに直行。ガハク像を眺めながら「いいねえ」と呟き、じっくり見てくれたっけ。
そして今日は、そのアトリエを完全に撤収し終わった日だ。鬼に囲まれたアトリエに自転車で毎日通った。「よくやれたねえ」と、自身の目で観察したガハクの、その言葉がありがたい。
私も今日で退院だ。これからは、もっと本当の力が湧いてくるはずだ。(K)